第2章 the last rain(鉢屋三郎)
「三郎」
「よぉ、遅かったな。で?今回は何?」
雷蔵は、ああそれなんだけど…と少し言いにくそうにしていた。何だ?変な依頼でも来たのか?
「いや、仕事自体は難しいことじゃないんだ。それに長期に渡るものだから急ぎでもない。ただ…学園長が三郎を呼んでいるんだけど。」
「は?何で?仕事聞くだけならお前で十分だろ。」
「んーだから、僕じゃなくて三郎に話したいことなんだろ?都合がつく時いつでもいいから顔出せって。ほら、今回の急ぎじゃないから明日にでも行ってみたら?」
分かりやすく不満を顔に出す。
行きたくないが、学園長からの指名なので行かざるをえない。
渋々、わかったと口にすると、雷蔵はほっと胸を撫で下ろしていた。
翌日雷蔵とは別行動を取り、俺は一人で忍術学園に来ていた。
幸い、彼女や後輩たちに会うことはなかった。
「おお、三郎。久しぶりじゃな。」
「お久しぶりです学園長。長らく顔を出せずに申し訳ありませんでした。」
学園長は相変わらず元気そうだった。
久しぶりに会いに来て良かったなと思った。
「ふむ、元気にやっておればそれでよい。ところで、今回お主を呼んだのには訳があってな。」
「はい。」
わざわざ俺を呼んだのだ。何か特別なことなんだろう。
「実は……椿君のことなんじゃ。」
「……え?」
椿のこと?なぜ俺に?
俺は彼女とは何の関係もないのだが……
「椿君は今年で二十になった。世間的には適齢期じゃ。それで椿君にその…話をしたんじゃが、彼女には想い人がおって、それを待っていると言うんじゃ。」
そんなことは知っている。
なぜ俺はこんなことを聞かされなくてはならないんだ。
「ところがその待つというのも、もう三年になると言う。わしは健気に待ち続ける椿君が不憫でならん。彼女にもそろそろ自分の幸せを考えて欲しいと思ってな。だがどこの馬の骨とも知らぬ男を紹介するよりも、お主ならどうかと思ったんじゃ。」
「……」
「いつだかお主はみんなの前で、椿君を諦めないと宣言していたな。わしはそのことでお主を非常に高く買っている。一度椿君に会いに行ってやってはくれんか?」