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【忍たま】短編集 【R18】

第2章 the last rain(鉢屋三郎)


それからすぐに卒業の日が来た。
あれ以来、椿とは顔を合わせていない。俺が彼女を避けていた。
最後に見たあの申し訳なさそうな顔、それを向けられるのが怖い。
目を反らされるのが、声のトーンが落ちるのが、避けられるのが怖くて自分から椿を避けた。

みんなには普段と変わらなく接することができたのに、雷蔵はそんな俺に気付いていたようだ。
心配そうに窺う雷蔵、それさえも俺は拒絶した。
彼女の話はもうしたくない。しなくていい。




このままこの門をくぐって外へ出て行こう。

後輩たちが泣きながら別れを告げてくる。
俺たちは交わることのない別の道を選びながらも、いつかまた会おうと約束を交わす。



「…三郎君!」


椿が外まで見送りに来て、一人一人名前を呼んだ。
ずるいな、無視するなんて出来ないじゃないか。


「…元気でね。」


俺はゆっくり振り返って、精一杯の努力をする。
雷蔵の仮面を借りて、感情のない笑顔で椿に答えた。


これが俺たちの別れだった。















それから早くも二年が経った。

雷蔵と組んで仕事をするのにも慣れ、順調にその量も増えていった。
たまに忍術学園学園長からの仕事の依頼も受けるようになった。
だけど学園の中に入るのは雷蔵に任せている。
学園長には失礼だと感じていたが、どうしても足を踏み入れがたく、雷蔵には適当な誤魔化しを頼んでいる。

雷蔵は忍術学園に行く度に後輩たちや椿に会っているらしく、聞いてもいないのに逐一報告してくる。
俺は対して興味もなさそうに適当な相槌を打つ。


今日も半年振りに学園長から呼ばれ、雷蔵がそれを受けに行っている。
俺は高い木の上で寝転がりながら雷蔵の帰りを待っていた。

風がサァッと吹いて小枝を揺らした。
見下ろせば薄く色付いた木の枝が目に入る。

また桜の季節がやってくる。
椿はいつものようにまた生徒を見送るのだろう。
きっと彼女は先輩と幸せになっているだろう。
俺にはできなかった。でも、もういい。
彼女が幸せに過ごしているなら、それでいい。


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