第2章 the last rain(鉢屋三郎)
彼女は軽く流そうとしている。やっぱり年上の余裕がこんな時でも出るんだ。
俺はそんなことは考えられなくて、本当に余裕がなくて、彼女を少し乱暴に壁際に追い詰め退路を塞ぐ。
椿は俺の変わり様にすごく驚いた顔をしていた。
「さ、三郎く━━」
「どうして待っていられるんだよ!?本当は寂しいくせに、どうして笑っていられるんだよ!?俺を選べよ!俺の気持ち知ってるだろ!?」
「だって…信じてるから。だから、待っていられるんだよ。」
椿は悲しそうに笑って見せる。
思えばこの時点で俺の負けは決まっていた。
引き返していれば、これからも彼女と普通に接することができただろう。
「信じていたって、先輩は帰って来ないじゃないか!文の一つもよこさない、それが答えだろ!?」
「そう、かもね…でも…好きだから。」
どうしてその言葉は俺に向けられないんだ。
悔しくて苦しくてもうたくさんだ。
他の誰かに盗られるくらいなら、今ここで椿を壊したい。
「俺は…椿が好きなんだよ!」
「!?」
思い切り吐き捨てた後、彼女の唇を無理矢理奪う。
椿は逃げようと必死に俺の体を押し返す。
そんな彼女の抵抗を否定するように、俺は椿の唇を捕らえて離さない。
椿の抵抗が一瞬止まった。彼女の唇を解放し、顔を覗き込んでギョッとする。
━━涙
本格的に降りだした雨に二人ともずぶ濡れだが、椿が泣いているのはわかった。
「…っ、ごめんなさい…」
「!!」
そう言い残し椿は走り去る。俺は動けなかった。
今のは完全に、俺の可能性を否定していた。
どんなに想いを込めても言葉を並べても、彼女には届かない。受け入れてもらえない。
それならいっそのこと、思い切り殴って突き放して欲しかった。痛みで目が覚めるくらいに。
彼女は優しい。だけど残酷だ。
椿がいなくなった空っぽの腕の中を見つめたまま、俺は思い切り泣いた。
雨が降っていて良かったと思う。
こんな姿は誰にも見せたくなかった。