第2章 月はまだ見えない
十四才…隆光と同じ歳だ。
椿は兵助に、昔生き別れた腹違いの弟の姿を重ねる。
あれから四年が経つだろうか。まだ椿の背より小さかった弟は、もう自分を越してしまっていることだろう。元気にしているだろうか、それだけが気がかりだった。
兵助と入れ替わりで戻ってきたおばちゃんに椿は、生徒と話せたこと、豆腐作りを手伝えたことを嬉しそうに話した。
椿の様子におばちゃんも、良かったねと言ってくれた。
間もなく夕食時、食事の準備をしていると遠くから走ってくる足音が複数聞こえる。それらは食堂に入るなり、全員が声を揃えた。
「初めまして!僕ら一年は組の良い子たちでーす!」
一人一人名前を名乗り、飛んでくるのは質問の嵐。全てに答えてあげたいが、今は混む夕食の時間。後から来た青い装束の子がぷんすか怒っている。
「みんな、今は夕食の時間だからまた今度ね。」
そう促すと、は組の良い子たちは返事をして席についた。
「…でさぁ、俺のことすっごい見つめてくるんだよ。」
豆腐作りを終えた兵助は、他の五年生と合流していた。勘右衛門、雷蔵、三郎は新しく来た食堂のおばちゃん見習いに大層興味を持ったようだ。
「へー、何、モテ期ってやつ?」
「兵助が?まさか!豆腐が好きなだけなのに。」
「おい、なんだよ!その言い方!」
「でも気になるよね、美人なんだろ?」
「なんだ、雷蔵も隅に置けないな。」
「二人だって気になるくせに。」
「じゃあ行こうぜ、その彼女拝みに。」
「ところで八左ヱ門は?」
「毒虫の捜索。」