第2章 月はまだ見えない
実は忍術学園に来るまで、資金稼ぎのためにアルバイトをしてきた経験があった。だから大抵のことはそつなくこなせるし、またそうしてこなければ生きてはこれなかった。一人で生きてきた中で椿は、見て盗むというスキルも自然と身に付けていた。
食堂のおばちゃんと相談して役割を決める。基本的に食事はおばちゃんが作るので、椿は材料の下処理や調理補助、生徒への食事の受け渡し、最後に後片付けをすることになった。
それでも忍術学園全員の食事を二人で準備するのは、結構大変である。
「そうそう、今日は六年生が校外実習に行ってるから少し遅くなるみたいよ。」
もちろん、このようなイレギュラーも多々あるため、対応しなければならない。
「そうだった!学園長先生に呼ばれていたんだ。椿ちゃん、ちょっとここお願いね。」
「はい、いってらっしゃい。」
おばちゃんを見送り、さてどうしたものか夕食に使う芋の皮でも剥いていようかと思っていた時、台所勝手口より声がした。
「食堂のおばちゃん、いますかー?」
誰か来たようだが、おばちゃんは不在。仕方がないので返事をして出ていくと、群青色の装束の男の子がいて椿を見て困惑の表情を浮かべる。
「え?あ、あの食堂のおばちゃんは…?」
「ごめんなさい、今用事があって不在なんです。」
「そうですか…あなたは?」
「あ、私今日からここで食堂のおばちゃん見習いとして働くことになった竹森椿です。」
よろしくねと微笑むと彼は照れながら、五年生の久々知兵助と名乗った。
椿は五年生と聞いて兵助をまじまじと見上げる。
自分より拳一つ分背の低い椿に上目遣いで見つめられ、兵助の心中は穏やかではなかった。
困り果てているとようやく椿が気付いてくれた。
「あ、ごめんね!食堂のおばちゃんに用事だったんだよね!すぐ戻ると思うから、中で待ってる?」
「じゃあ、お邪魔します。…実は豆腐を作る手伝いをお願いされていたので、ちょっとここ使わせてもらってもいいですか?」
「えぇ!お豆腐作れるの?すごい!」
椿は目を輝かせながら、兵助の手伝いを買って出た。