第12章 月に映るは君の顔
椿が笑顔で手を降る。
その言葉に仕草に表情に、土井の心は晴れていった。彼女がいるだけで、こんなにも幸せな気持ちになる。
愛しい。
その想いが止まらない。
だが今は授業に向かわなくては。
いつか、この想いを彼女へ届けられたら…
土井が授業へ行くのを見届けた後、椿もまた食堂のおばちゃん見習いとして頑張ろうと気合いを入れる。
背中の痛みはまだ完全になくなってはいない。
それに傷痕も残ってしまった。とても人に見せられるものではない。
これは罰だったのだ。
竹森を捨てたことへの罰だ。
でも後悔はしていない。
もう二度と父に利用されることもない。
私は自由を手に入れた。
大好きな人たちを見つけることができた。
それだけで、十分幸せだ。
ランチの時間、おばちゃんは無理しなくていいって言ってくれたけど、私は食堂のカウンターにつく。
ここで皆を待つ。
少し前まで当たり前にしていたことが懐かしく、それと同時に私の楽しみでもあった。
次々現れる生徒たちは、まさか私が立っているとは思ってなかったらしく、皆驚いていたけれど笑顔で来てくれた。
ユキちゃん、トモミちゃん、おシゲちゃんは、あの日一緒に外出しなかったことを悔いているようだった。
三人には気にしないでと言い、今度は女の子同士で出かける約束を申し出た。
快諾してくれて楽しみが出来た。
「あ。」
「…あ。」
三郎君だ。
さっき派手に言い争ったから、気まずい顔して目を反らされる。
さすがにその態度は、ちょっと堪えるな。
「三郎君、さっきは大人気なくてごめんね。」
「…いや、俺の方こそ…ごめん。」
「よかった~もう口利いてくれないかと思った~」
三郎君がフンと鼻で笑って、そんなことしないと言ってくれた。
その言葉に安心して笑みが溢れる。
三郎君も笑顔を見せてくれた。
俺が彼女と口を利かない訳がない。
だけど正直、彼女が仲直りのきっかけを作ってくれて助かったと思う。
そこはやっぱり、年上の余裕なんだろうか。
たった三つの年の差は、こんなにも俺の余裕を無くす。
ただでさえ弟扱いされているから、他の恋敵たちと同じラインには立てていない。
だけど諦めない。
いつか弟を卒業できるように、俺の手を彼女が握るように。
敵は手強いけど、やってやるさ。