第12章 月に映るは君の顔
学園長室での混乱に巻き込まれた椿は、ほとんどの生徒に感謝と謝罪をしてやっと解放された。
その足で食堂に向かう。
椿の姿を見つけ、食堂のおばちゃんの目が潤った。
「椿ちゃん!」
「おばちゃん!心配かけてごめんなさい!お使いもできなくてごめんなさい!」
久々の再会に二人は抱擁を交わす。
「いいんだよ、無事に帰ってきてくれただけで、もういいんだよ。お帰りなさい。」
「ありがとう、ただいま!」
「椿さん!」
そこへ急いで来たらしい利吉が、珍しく息を切らして食堂に現れた。
椿の姿を見るなり、安心したように表情を緩める。
「利吉さん!」
「良かった!気がつかれたんですね。今父から聞いて飛んで参りました。」
「ありがとうございます。利吉さんにもご心配おかけして、すみませんでした。」
「あなたが無事ならそれで良いんです。…少し外で話しませんか?」
「はい。」
利吉と共に外へ出る。
空は相変わらずの晴天。雲一つないその青さは、今の椿の心を映す鏡のようだ。
「すみませんでした、あなたが大変な時に側にいることができなくて。」
「いいえ、謝らないでください。山田先生からお聞きしました。利吉さんが竹森の城を見つけてくれたから、私は忍術学園に戻って来れたんです。ありがとうございました。」
椿の言葉に利吉は安心したように笑った。
そして彼女の正面に立ち、両手を広げて待つ。
利吉の行動に、椿はそれをやられる側になり改めて恥ずかしさを感じずにはいられない。
「あ、あのっ…!?」
「これも父から聞きました。あなたが学園中に『挨拶』回りをしていることを。私にはして頂けないのでしょうか?」
「えっ!いや、そういうわけではなく…あの時は皆に会えた喜びのあまり、勢いでしてしまったというか…その、ですから、今となっては…は、恥ずかしくて…」
椿は顔を赤らめて困っている。
利吉は悪戯な笑みを浮かべた。
「つまり、その場のノリでしてしまったと?」
「う…」
「だそうですよ、土井先生。」
「え?土井先生?」
椿は辺りをキョロキョロ見回す。
近くの木陰から気まずそうに現れたのは土井だった。