第12章 月に映るは君の顔
━━竹森城━━
椿が目を覚ます前に遡る。
「━━っ!姉上が……」
隆光は神室より椿の髪を受け取った。
姉は『竹森椿としての死』を選んだ。
そこまでして守りたかったもの、今父がそれを奪おうと目論んでいることは知っている。
幼少より慕っていた姉の死、ならば自分が選ぶものは決まっている。
「桧山!桧山はどこだ!!」
聞こえてきたのは父の怒鳴る声。隆光は心静かに隆影に歩み寄る。
「父上、桧山はもういません。私の監視下に置いています。」
「隆光!?なにを勝手なことを━!」
「父上、もう姉上に…忍術学園に一切関わらないと御約束ください。」
「お前…誰に物を申しておる!」
隆影は頭に血が登り、隆光へ詰め寄る。
隆光は臆することなく隆影を睨み付ける。
「約束してください!あの地は姉上が命を懸けて守りたかった場所。私はこれ以上、姉上を苦しめたくはありません。父上、あなたがそれでもお考えを改めないおつもりでしたら、私にも考えがあります!」
隆光の迫力に隆影が怯む。
「な、何をすると言うのだ?」
「あなたをそこから引きずり落とします。私ももう、齢十四。子供ではありません!」
隆光はそう吐き捨てると、隆影の元を離れた。
残された隆影は、溺愛してきた息子の言葉にただ力なく座り込むしかできなかった。
「神室」
「はっ」
隆光は遥か遠く、忍術学園の方を見ながら神室に言う。
「これは私の我が儘かも知れない。幼少の頃、姉上を守りきれなかった償いなのかも知れない。だが父上のやろうとしたことは間違っている。お前は…私についてきてくれるか?」
「はい、勿論でございます。」
まだ未熟なその背中に、神室は今一度誓いを立てる。
葵から続く我が主の願いは、この若君へと引き継がれていった。
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