第11章 帰る場所
「ほう、そうなのか三郎。」
学園長の声に、天井裏に一緒にいた兵助が三郎を肘で打つ。
三郎は下に降りて椿の前に姿を現した。
「ね、三郎君教えてくれたよね。」
「三郎、お前気付いていたのか。感心じゃのう。」
三郎はそこで気付いた。椿が何を言っているのかを。
だが彼女の勘違いを何と説明したら良いか迷った。
ばつが悪い顔をしていると、椿が首を傾げる。
三郎は諦めて、正直に述べることにした。
「確かに、椿さんを狙っている存在がいると教えました。しかしそれは……外部のことではなく……その……」
「?」
歯切れの悪い三郎に全員の注目が集まる。
「学園内の…恋敵のことを言ったまででして……」
目が点になる、鳩が豆鉄砲を食らうとはこのことか。
しばらく椿は固まっていたが、やがて顔を真っ赤にすると絶叫を上げた。
「だっ、だって狙ってるって言ったじゃない!」
椿の反論に、思わず三郎もむきになる。
「だから、椿さんに好意を寄せてるって意味で!」
「ちょっと!皆の前でそんなこと言わないでよ!」
「椿さんが勘違いしてたんじゃないか!」
「だって、あんな言い方じゃ勘違いするわよ!」
「あの話の流れで普通勘違いしないだろ!」
学園長を挟み、その頭上で二人は口論を続けた。
皆呆気に取られ止める者はいない。
学園長とヘムヘムは茶をすすっている。
「じゃあこの際はっきりさせてもらうけど、本当に兵助狙いなのかよ!?」
「へ?俺?」
天井裏の兵助が一番驚いた。
「な、なんで兵助君が出てくるの?」
「椿さん兵助のことすごい見てたって聞いたんだ、どうなんだよ?」
これには兵助始め、全員が注目をする。
土井以外の教師や学園長はこの流れを面白がっている。
「それは…」
「それは?」
「……弟、みたいだなって思って……」
『弟!?』
五年生の声が見事に重なる。
椿は天井裏に兵助がいたことを、今更ながら思い出した。
「あ、ごめんなさい。隆光と同じ年だから、ついついじっと見ちゃってたかも。」
兵助の頭の中で『弟』という言葉が反復する。彼は誰の目にも真っ白に映った。
その様子に留三郎と文次郎は、腹を抱えて笑った。