第8章 作戦開始
小平太、長次と合流した山田は事情を聞くと、敵味方関係なく全員を崖上へ誘導した。
小平太が神室の名を漏らすと、先程利吉と対峙した男は顔色を悪くし兵士の説得にあたった。
留三郎、きり丸、しんべぇは皆が上がってくるのを手助けする。
「山田先生、全員の点呼が取れました。」
「よし、あとは半助だけだ。」
山田にもこれから起こりうることは想像できない。ただ土井を信じて待つ。それだけだった。
大地が震える。
地震かと口走る者、だが違う。
ゴォォォォオオオオォォ━━━━━━━━
地響きのような重低音が這うように響く。
誰もがその正体を掴めない中、土井が姿を現した。
「半助!!」
山田は土井と男二人を引き上げる。
誰かが上流を指差し叫ぶ。それを見てはっと息を飲んだ。
白濁とした飛沫、大木をも巻き込み現れたそれは巨大な黒い蛇のようである。大蛇は一瞬で目の前の城を飲み込み跡形もなく消した。
その光景に声も出ない。何も聞こえない。
もし崖上にいなければ間違いなく喰われていた。
誰もがそれを見つめていた。
下手をすると、息をするのを忘れる程だ。
立ち尽くした兵士たち、膝から崩れ落ちる者、九死に一生を得たと拝む者までいた。
「山田先生。」
「半助!無事で良かった…」
あまりの衝撃に山田の口から本音が漏れる。
「はい、実はかくかくしかじかで…」
「ふむ、まるまるうまうまと言うわけか…利吉!」
山田は利吉に桧山の監視を任せた。
桧山は動く様子がない。
「椿さんは?」
「ああ、奥で伊作が手当てをしている。ひどい怪我だそうだ…」
「そう、ですか…」
やはりあれは見間違いではなかった。
彼女は体に傷を負った。もっと早く駆けつけていれば…土井は悔しさを滲ませた。
神室が顔を上げる。そこには兵士たちや仲間の忍の姿。全員生きているようだ。
そしてそれを囲むようにいるのは忍の姿をした若い顔、忍術学園の生徒だとわかった。
「……神室さん……」
青い顔をした男が神室に近づく。
「俺………俺は………」
「愁、お前はお前の仕事をしただけだ。お前の罪は私が背負う。」
「!!」
愁と呼ばれた男は、その場で膝から崩れ落ちた。
この人には、到底敵わない。
胸が苦しくてまともに息が出来なかった。