第7章 狙われたのは
黄昏時が空を支配しようとする頃、救出組は山田、土井の元に集まっていた。
「山田先生、土井先生。椿君をよろしく頼みます。その出城の存在も気になるところじゃが…現場の判断に任せます。」
「わかりました、学園長。必ず連れて帰ります。」
「では救出組はこれより出発します。先生方、留守をお願いします。」
こうして、利吉を先頭に救出組は森の中へ消えて行った。
椿が目を覚ました時に見たのは城のようなものだった。
まさか連れ戻されたか、と肝を冷やしたがそれとは違った。
見る限り、両側を岩壁に囲まれた谷の中に隠れるように作られた城だ。
普通はこんな場所に城は構えない。逃げ場がない上に攻めこまれやすいからだ。
何の意味が?
あの男が絡んでいるため、卑劣な手段を使うであろうことは安易に想像できる。しかし、父の狙いがわからない。
忍装束の男たちに連れてこられ、随分時が経った頃椿は部屋の中で両手を拘束され動けない状態であった。
部屋は小窓が一つしかなく薄暗い。人の気配はないが、部屋の外には見張りがいるのだろう。
そこへ入ってきた忍姿の男の顔を見たとたん、椿は苦虫を噛み潰したようにその名を呼んだ。
「…桧山、これはどういうことだ?父上は何を考えている?」
桧山と呼ばれた男、身の丈六尺程の大男で特徴的な赤い髪の持ち主だ。覆面から覗くその目は椿を蔑むように見ている。
「これはこれは椿サマ。お久しぶりですね。まさかあなたが忍術学園に忍び込んでいたとは驚きですよ。」
「答えろ!桧山!」
桧山は道化のような男だ。まともな回答など聞けるはずもなかった。ただ、椿は焦っていた。
「椿サマ、あなたはご自分の立場がまるでわかってらっしゃらないようですね。お父上からしてみると、あなたはただの駒なのですよ?駒ならば、それ相応に役立って頂かないと。」
「父のために私に知らぬ男と婚儀を結べと言うのか。」
とたんに桧山は高笑いをする。この慇懃無礼な男を睨むことしかできない自分に腹が立つ。
「あなたは勘違いをされているようですね。あなたの体は最早必要ない。欲しいのはあなたの持つ情報なのですよ。十分探ることができたでしょう?忍術学園の秘密を。」