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【忍たま乱太郎】かぐや姫

第5章 美しい女


放課後、委員会へ向かう足を止め、目の前の状況を目視する。
四年生の綾部喜八郎が屈む背中、誰か穴に落ちたらしい。また伊作だろうか。
喜八郎の背中越しに覗いて見ると、意外な人物がそこにいて、私を見つけると助けを求めてきた。

「仙蔵!助けて~!」

涙目になりながらこちらに手を伸ばす椿の姿に、己の中の支配欲が掻き立てられる。
自身に流れてくるこの感情は、実にやっかいだと思いながらも嫌な気はしなかった。

「助けて欲しいか?ならば私と取り引きしろ。」

椿は文句を言いながら喜八郎に助けを求めるが、奴は乗り気ではない。ただ助けるよりも、私が持ち出した取り引きの方に興味を惹かれたんだろう。
椿は何をさせられるのかと、怯えているようだった。

「安心しろ。女に恥をかかせるようなことはしない。」

椿が渋々承諾するのを確認すると、彼女の手を引き上げた。

「はぁ、やっと出られた~。…で、何をすればいいの?」
「我々はこれから委員会がある。それを手伝ってくれればいい。」

喜八郎が、あーと納得した声を出し、椿はほっとした表情を見せた。




「ま、待って!やっぱり無理ー!」

何が無理だと言うのだ。女ならば、恥ずかしがりはしても拒絶はしないだろう。なのにこの女ときたら天性の素質を持ちながら、私に化粧されることを拒否している。
一年生の伝七、兵太夫の説得からも逃げ回る。しばらくそうしていた彼女の手を引き寄せ、その理由を問う。
困ったような怯えたようなその瞳に、自分の姿が写りこむ。

「……に……から」

至近距離で揺れる睫毛。頼りないくらい小さな声で椿は呟いた。

「…母上に…似てしまうから…」

兵太夫が何かを言いかけるのを片手で制する。椿は身寄りがいないと聞いている。ならばこれは、彼女の心の深い部分に踏み込むことになる。悪いことをした。椿を悲しませたいわけじゃない。

「母上のことが嫌いか?」

なだめるように優しく問いかける。椿は首を横に降った。

「母上のことは大好きだった。でも父上のために母上になるのは嫌なの。…父上のことは好きじゃないから。」
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