第94章 創傷(そうしょう)
失いたくない、大事にされてきた想い出が
溶けては消えてゆく感覚に飲まれていた
そして…失いたい、大事にされなかった思い出ばかりが
静かにこびり付き、そこに焦げ目を残して去ってゆく
傷跡ばかりを残して、決して癒えることの無い痛みを残して――
これが…削り……ずっと、ケイトが…原初の始祖神達が、ずっと味わってきたこと―――
そんな思いに駆られる中…
ケイトは心配そうに、顔を覗き込んでいた
一昨日のそれで、凄まじい傷と共に、削りが膨大に必要となっていた…
それにより、こちらの方もまた削りが必要となり…
その結果…この様(ざま)だ
寝込んだまま、身体が動かせずにいた
その看病に勤しむケイトに…
僕は笑って、その頬を撫でた
優しく…宿灘と、君の母と同じやり方で……
愛していると、伝える為に――
ケイト「っ」ぼろぼろ瞑目
その手を握り締め
涙を滝のように流し、ぼとぼととズボンの膝を濡らし続けていた
絶え間なく流れるそれに、そっと手を動かして人差し指で拭った
フィン「…大丈夫だ(微笑)
涙を拭うぐらいなら出来る
心配しないでくれ^^」
ケイト「…(くす)
勇者様と同じことをしてる^^」くすくす
フィン「ふふっ(微笑)
ああ…やったね(瞑目)
魔王の前で…ククリの涙を」
ケイト「ニケ…くん」
フィン「どの世界でも変わらないな…
必ず…どこかしら似ている
通じているんだろうね」
ケイト「………うん」苦笑
フィン「………
似ていて、よかったよ…
誰にも譲りたくない…この役目だけは、誰にも」
ケイト「………
私も…同じ気持ちだ
お前じゃなきゃ嫌だし…私も自分の役割を譲りたくない
その削りは、私程では無いと…言われて、知ってはいる…でも……やっぱり――辛いよ」
痛々しい表情で
本音を出してくれた
フィン「………
恐れることは無い
僕は…この気持ちは、たとえ死んでも変わらない
譲らない
君は…僕の誇りだ
死んでも、譲らない
絶対に…ね?^^」くす
ケイト「うん…^^(微笑)
必ず守るよ――」ぎゅうっ
フィン「僕だって…必ず守る」ぎゅうっ
誓いと共に抱き締め合った
強く抱擁を交わす中、唇を求め合う
その中で…変わらず、太陽は照り、沈み…夜を越え、朝を迎え、温もりを与えた