第89章 堆魂の儀(ついこんのぎ)
そして――7月10日
『堆魂の儀(ついこんのぎ)』の提案がケイトの口からされた折
皆も賛同し、その準備に勤しむこととなる
そのきっかけは――些細なこと……
最後に残った赤い布、それを引き取りに行く際でのこと…
そして――
フォボス、リヨン・リード、ルーカ達のことも相まってだった……
人生に転機を齎し、大事に想い、寄り添ってくれた――大恩ある恩人達―――その死と向かい合い、乗り越え、それを報せ、亡くなった者達を悼み…そして―――共に乗り越えたかった意も、幸せで居て欲しいという願いも、今も胸を痛め続けてくる痛切な想い(愛情)も――全てを込めて―――最期の贈り物としたい、手向けとしたいのだと――――
ケイト「おかあさん――」ぼそり
早く帰りたい――
それを除いた全てが見えなくなる
それ程に――大事だった
大事にし合えていた
どれだけ辛く当たられようが、大好きだった
余裕が無いこともわかっていた
それでも大事にしようと踏ん張って、頑張ってくれていた
だから…精霊達も受け入れていたし、大事にし合えてもいた
だからこそ――生きたかった
一緒に年を取って、喧嘩してもいいから、嫌いになってもそれごと大好きだから、共に居たかった
それごと愛するほどに大事だから、亡くなった今でも…いつまでも……
早く還りたい(あの世に帰りたい)よ―――
死ぬ以外に方法が無い中で…
それでも…前を向いて、生きて行く為に……
ケイト「嫌だな…」ぽつり
そう、双眸から涙を零した
この世はすれ違いも多い
まともな人なんて少ない方が多い
しかし…そんな人達は全て消えて無くなった
それでも……喪ったものは、どんなことをしたとしても、何を手にしたとしても、穴埋めにはならないし、代わりにもなれない
この世は酷く、息苦しく、残酷で、痛くて、辛くて、早く投げ出したい気持ちにばかり駆られてしまう――そういう側面を持ち合わせているのも、また事実だ
その赤い布は…
母と共に笑って編んでいたものだった……
初めて糸を使って、一緒になって編んでいた…‥…
精霊王の森で、許しを得て得た初めての糸…それから作られた、一緒に創った思い出の品だった――
だからこそ――より一層、愛しかったのだろう…『それまで』失いたくはなかったのだろう―――