第86章 紡ぎ
浄化を境に、癌の全てが存在したという痕跡(存在したことで発生した痕)から抹消された
「癌」
それが生きた証は――アンリミテッドという浄化を境に、全て消失した
全てが消え去った―――
その日――存在したという痕跡から抹消された
癌を消す際――起こるはずだったこと
それが起こり――歴史から――記憶から――全てから消失した
それが与えた影響も全て――そこには癌が潜むから
5004,5005ページ参照
しかし――記憶や痕跡は消えたとしても、傷は消えない
存在したという痕跡から抹消されたとしても、癌によって死んだ人は決して蘇らない
死ななかったことには、決してならない
それと同様に…傷もまた、深く、残っている
わかるのは…癌にされた、ということだけ
傷付けられたがそれは誰か…認識できないとは、消された存在ということ
つまり…そういうことだから(癌以外にあり得ないから)
アイズの心中――
どれだけ頑張っても、どれだけ削っても、どれだけ大事にしても…
見向きもされず、大事にもされず、報いるべき存在とも思われもせず、何も削られないまま、何も頑張られないまま、何も大事にされないまま…
ずっとずっと…利用され続けて…ずっとずっと搾取を繰り返され続けるばかりで…こっちのことなんて何も考えてくれない、気持ちを大事にしてもくれない、慮ってもくれない
くれくればかりで、一向に渡す気は無い
確かに…人から受け取った優しさを、別の誰かにあげることが出来るのかもしれない
でも…それは……
貰った本人に返す気は更々ないということ……
それを善人だと、歪めて、信じ切っていた…
何も大事にしてこないで、笑って搾取と利用を繰り返し続ける癌に…大事にしようと……
おぞましい――!!(真っ青&ぞっ!!)
傷跡が疼き、居ても立っても居られず、耐えられずに、思わず自らの身を抱いた
恐かった…
本気で大事な人だと思っていた、信じ切っていた
それを利用してくる人だなんて思わずに――大事にしないで平気で搾取を続けていられる人だなんて思いもせずに―――
震えが増す中…ケイトが背後から包み込むように、そっと抱き締めてくれた
自然と震えが止まった
…もう、大丈夫(微笑)
ほっとする心中に、守ろうとしてくれる温もりに、私は身を委ねた