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【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第6章 謎の少年




 路地裏の湿った土が巻き上げられ、辺り一面がぼんやりと暗くなる。土埃を含んだ茶色い風が身体を後ろへ持って行こうとするのを、出久は地面に這いつくばって耐えた。風がおさまってから、おそるおそる上半身を起こす。


 まだ薄く土埃が舞う中、立っていたのは――獣だった。


 ぴんと立った立派な三角耳と、全身を覆う白金色の体毛、犬科だと一目で分かる面長の顔立ち。地面を踏みしめる四つ足の肢体は筋肉で覆われ、しなやかで美しい曲線を描いている。全長は出久の身長の倍はあり、身幅も路地裏の幅をほとんど占領してしまうほど肉厚だ。


「お、おお、お、狼……!?」


 目まぐるしく襲い来る現象を前にまったく状況把握ができない出久は、地面に倒れ込んだままようやくそれだけ言った。そう、それは狼だった。およそこの日本にいるとは思えない、浮き世離れした巨体を誇る、白金の狼。あれが男たちを枯れ木のように突き飛ばしたのだ。


「ちょっと、関係ない人に手ェ出すのやめてくれる?」


 と、巨狼の後ろで凛とした女性の声が聞こえた。小さいが研ぎ澄まされた、切れ味の抜群に良いナイフを連想させる声だ。


 巨狼の脇から進み出てきたのは、出久と同じ年頃の少女だった。金色のボブカットの髪に、同じ色の瞳。頭頂部の毛は両側が元気に外ハネしていて、何かの動物の耳を思わせる。きりりとつり上がったアーモンド形の目もどことなく獣を連想させ、傍にいる狼と雰囲気がよく似ているように思った。トレーナーに細身のジーンズを身につけ、その立ち姿は猫のように流麗でしなやかだ。


 彼女はふんと鼻を鳴らし、向かいのビル壁に叩きつけられ未だ痛みに呻いている男たちを侮蔑の表情で見下ろした。


「あんたたちみたいな雑魚敵の相手なんて、私たちで十分なんだから」


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