【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
自己紹介が終わると、凪人と名乗ったその男は執務机の手前に置かれたローテーブルの方に出久を促した。テーブルの傍にはソファが向かい合わせに置かれ、普段応接用として使っていることが見て取れる。が、テーブルの上には書類やらファイルやら使いさしのマグカップやらが散乱し、凪人の言うとおり、かなり散らかっている状態だった。よく見れば奥にある執務机も、ソファの後ろにあるスチール製の書類棚も、ありとあらゆるものが乱雑に置かれてあふれかえっている。ゴミ屋敷とまではいかないが、放っていたらいつかそうなるだろうという感じの部屋だった。
すると後ろから翔が進み出てきて、おもむろにテーブルの上のものを片づけ始めた。その動きは実に手慣れていて素早い。もう何度もこの場所を整理しているに違いなかった。その間に凪人は執務机の前に戻り、机上に置かれたケトルやマグカップをいじりだす。二人が動いているのに自分だけ座るのもためらわれて、出久はソファの傍に所在なげに突っ立っていた。
……それにしても、気のせいだろうか。黙々と片づける翔の顔が僅かに赤く染まっているように見えるのは。
(恥ずかしい…のかな? 院長先生の部屋がこんなだから……)
そう考えると何だか可笑しいような嬉しいようなよく分からない気持ちになって、出久はゆるむ表情を悟られないように下唇を噛みしめた。
「さァ、座って。紅茶で良かった?」
「あ、はい! 大丈夫です」
凪人の質問に答えながら、出久はおそるおそるソファの端っこに腰掛けた。ソファは冷たかったがふかふかしていて、同時にどっと身体が重くなる。あまりにたくさんのことが起こりすぎて、自分の疲労にすら気が付けない状態だったのだと思い知らされた。
もはや取り繕うこともできず素直に息をつく出久の前に、可愛らしいクマ柄のマグカップが置かれる。湯気とともにふんわりと漂ってくる紅茶の香りは、渇いてひりつく喉にはあまりにも魅力的すぎた。何が入っているのかなど気にする余裕もなく自然に手が伸びてしまう。
紅茶の美味しさと喉が潤っていく感覚に出久が感動している間に、凪人は向かいのソファに腰掛けた。そのまま慣れた手つきで、ソファの上に置いてあった何かに手を伸ばす。透明のビニールに包まれた、小さな白い箱。すぐにぴんときた。タバコだ。
