【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
数秒の間をおいて、眼帯男が言った。奥にいる猛禽男の表情が酷く歪む。鳥頭なのに、その表情の変化は出久にもよくわかった。
「はあ? おいおい、どうすんだよ。バレねぇようにやんねぇと報酬出ねぇんだろ?」
「わぁってるって、騒ぐな。……問題ねぇだろ、しゃべれねぇようにしたらよ」
眼帯男は低く這うような声でそう言うと、カーゴパンツにくっついた大量のポケットの一つに手を突っ込んだ。中から現れたのは鞭。黒い握り手の先に太い縄がぶら下がり、地面にとぐろを巻く。
出久の脳内がおそろしい予感で凍りつく間に、奥の鳥男も何やら得物らしきものを準備し始めた。眼帯男が出久の方へ一歩を踏み出す。すると彼の握っている鞭が、びきびきと硬質な音を立てながら変異し始めた。見るからに、硬く。縄は本来の柔らかさを保ちながらも鉄のような光沢を帯び、見るだけで気持ちが陰鬱になる暗い灰色に染め抜かれていく。何の変哲もなかった鞭は、まばたきをする間もなく凶悪に硬い鉛色の鉄鞭へと姿を変えた。
まさか。切島と同じ「硬化」の個性。自分でなく、ふれたものに適用される個性か。
頭の冷静な部分はそう瞬時に分析したが、出久がこの不穏きわまりない急展開についていけていないことに変わりはなかった。眼帯男がそれで自分に何をするつもりなのか、考える前に思考が自動的に遮断する。これから数秒後に襲うおそろしい未来の予感に、肩口からざあっと血の気が失われていく。
「え、ちょ、ちょ、と」
ようやく出たと思った声はひどく掠れて素っ頓狂で、出久の内心の混乱を包み隠さず正直に表していた。だが眼帯男が聞く耳を持つ気配はない。
まずい。逃げなければ。でもどこに? 出久が横方向に逃げられないよう、男たちは少しずつ動いて位置を調節している。慣れた動きだ。背後には今し方通ってきた道とも呼べない狭い隙間があるが、身体を横にしなければ通れないような場所で、後ろも見ずに素早く後ずさることなどできるはずがない。振り向いて飛び込むか? 駄目だ。その間に襲いかかられてしまう。
出久は絶望とともに悟った。逃げ場はない。