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【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第7章 アザミの家




「凪人」


 彼が箱の開け口からタバコを抜き取る前に、横から鋭い声が飛んできた。出久が声の方を振り返ると、眉根を寄せた厳しい表情の翔が凪人をねめつけている。


「あァ、悪い。ついね」


 凪人は翔の指摘に気づくと、へらりと笑って肩をすくめてみせた。抜き取ったタバコをペン回しの要領でくるくると回してみせる。


「一日一本って約束だ。守れないなら全部捨てるからな」


 子どもを躾ける母親のような、大人びた口調で翔は言った。孤児院の子どもがそこの院長にするとはまず思えない物言いだ。元々鋭い目つきをしている彼が睨みを利かせるとなかなかの迫力で、端から見ている出久でも思わず怖じ気付いてしまう。


「ひっどいなぁ。女物しか吸わないんだからちょっとは勘弁してくれよぉ」


 しかし当の凪人はその視線をものともせず、それこそ母親に欲しい物をねだる子どものように甘い声で懇願した。困ったように眉を寄せた表情で、タバコの箱を掲げかたかたと振ってみせる。おねだり…のつもりなのだろうか。しかし翔の視線の厳しさは断固として揺るがない。いや、むしろより一層きつくなった感さえある。申し訳ないが出久も翔と同じ心持ちだった。大の大人に、しかも男性に、こんなふうに媚びられてもどう反応して良いか分からない。少なくとも好感度があがることはけしてないだろう。


「…はいはぁい。分かったよ」


 おねだりが通じないと分かったのか、凪人は諦めたように大きなため息をついてみせた。そのままタバコを箱の中に押し戻し、白衣のポケットに無造作に突っ込む。


 と、今度はおもむろにテーブルの上の砂糖壷を引き寄せ、角砂糖をひとつつまみ出した。自分の分の紅茶に入れるのか…と思いきや、いきなりそれを口の中に放り込み、ごりごりとかみ砕き始める。唖然とする出久の耳に、「バカ」と囁く翔の声が届いた。


「何だよ。砂糖なら別に良いだろぉ。血糖値は正常なんだから」


 翔の視線を鬱陶しがるように、凪人は目を眇めながら言った。早くも角砂糖をかじり終え、2つ目を食べようと再び壷に手を伸ばしている。

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