【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
男の背後にはもう一人、仲間とおぼしき者がこちらを正面にして立っていた(まさか二人いるとは思わなかったが、おそらく手前の男の陰に隠れて見えなかったのだろう)。
こちらは首から下は人間、上は鷹なのか鷲なのか、とにかく大型の猛禽類で、まさに「鳥人」と形容できる風体だった。個性の関係で、人間でない別の動物の身体的特徴を持つ人は少なからずいるが(クラスメートの蛙水梅雨なんかはその典型だ)、それを考慮してもそのひどく憔悴したようにぎらつく瞳は常人のものとは言い難かった。はちきれんばかりに鍛え上げた肉体の上に迷彩柄のジャージを着込み、袖からは茶色い羽に覆われた手が飛び出している。
どちらとも、たった今自分たちを追いかけている存在に気づいたといった様子でしっかりと出久を視界に捉えていた。その咎めるような脅迫するような剣呑な視線は、明らかに一般人のそれではない。人を傷つけ恐れさせることに慣れた、おそろしい人間の雰囲気が容赦なく出久を突き刺す。
「あ? 何だてめぇ」
黙り込んでいる出久に痺れを切らしたのか、手前の眼帯男が半ば恫喝のように声をかけてきた。それでも出久は何も言えない。まさかこんな、陳腐な任侠ドラマのような状況に行き遭うなんて想像すらしていなかったからだ。
「おい、そいつか?」
今度は鳥男が眼帯男に声をかける。眼帯男は出久から目は逸らさないまま、僅かに首だけ動かして質問に答えた。
「いや、さっきのガキじゃねえ。別のガキだ」
「リストに載ってた奴か?」
眼帯男は黙り込み、ただ一つだけの目でじっと出久を見つめた。何かを見定めるような不躾な視線に、出久は体が内側から石になっていくような感覚を覚える。不安と恐怖で塗りつぶされそうになる頭の中で何とか思考する。
リスト。リスト? 何だ。何のリストだ。さっきのガキ、とは誰のことだ。
影のように路地裏へ消えていく翔の姿が脳裏をかすめた。
「……いや、違ぇ」