【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
そこに関しては既に、出久が今までに目にした光景がすべてを物語っていた。全く似ていない、いとこだという少年。少年をクラスメートに紹介するとき、わずかにさまよった視線。身を隠すように、音もなく路地裏へと姿を消したその手際。
翔には秘密がある。少なくとも、人目を気にしてこそこそと路地裏に潜り込まなければならないような秘密が。そしておそらくそれは、彼がワン・フォー・オールについて知っている理由にも繋がってくるはずだ。こんなところで、絶対に見逃すわけにはいかなかった。
「あっ!」
思わず声を上げた。たった今、出久がいる道から左手に伸びている細い路地、いや、ほとんどビルとビルの間にできた隙間のような狭いスペースに、黒い人影が見えた気がしたのだ。ほんの一瞬だったが出久は迷いなく、そのおよそ人が通るために作られたのではないだろう空間に体を滑り込ませる。
けして大柄ではない出久が体を横にしてもほとんど余裕のない狭い空間は、しかし長くはなく、数歩カニ歩きで進んだだけで通り抜けることができそうだった。
そこから先は今までと同じようにビルの壁で囲まれてはいるものの、数人がたむろできるくらいの開けた空間になっているようだ。日の射す方向に建つ建物があまり高くないからだろう、今までより数段明るい。
お化け屋敷から飛び出すような心持ちで、出久は狭苦しい隙間を抜け出て広い路地に出る。だが安堵の息は吐かなかった。吐けなかった、と言った方が正しい。
翔だと思って追っていた人影の正体が、翔ではなかったからだ。
それは30代くらいの男だった。がっしりと筋肉のついた体に、白いタンクトップと、親の敵のようにポケットが付いたカーゴパンツ、スケート靴かと見まがうごついブーツという出で立ちだ。彫りの深い顔には眼帯がかかっていて、ただ一つの目は魚のようにぎょろりとしている。