【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
どうして翔に対してそこまでの思いを抱くのか、出久には分からない。ただ、彼と自分は似通ったものを抱えているという感覚はあった。これもまったく主観的で、独りよがりなものでしかないが。
……だからこそ。
(一ノ瀬くんが本当に悪い人かどうか、他でもない、僕が、見極めなきゃいけないんだ。
僕は、ワン・フォー・オールを受け継いだ、オールマイトの弟子なんだから!)
そう心中で念じると、出久の足にはますます力がみなぎる。行動に踏み切ったことで、この一週間の悩みや不安にいちおうの区切りを付けられたからだろうか。この先何が起きるとも分からないのに、頭の中が空っぽになって冷たく冴えていくような、妙にすがすがしい気分だった。
人ひとり通れるか通れないかというような狭い路地をひた走る。散らばった煙草の吸い殻を踏みこえ、茶色く濁った液体をたたえるペットボトルを飛び越え、打ち捨てられた旧式テレビの上でまどろんでいた野良猫たちをごめんと叫びながら蹴散らして、ひたすらに奥へ奥へと走っていく。高いビルの壁に囲われた路地は、奥へと進む毎に暗くもの寂しくなっていった。
路地は左右にさらに道を分けていて、出久はそういう分かれ道に行き当たるたびに視線を巡らせたが、翔と太陽の姿は見あたらない。
先ほど路地に消える翔の背中に一瞬黒い翼が生えたように見えたのを思い出し、もしやビルの屋上を伝っていったのではないかと思い当たり、そこでようやく足を止めた。今さらのように太陽の光の届かない薄暗い路地裏から上空を見仰ぐが、当然二人の姿は見えない。
そうこうするうちに、出久はもう元の場所に引き返すこともできないほどに奥へと迷い込んでしまっていた。立ち止まって視線を巡らすごとに新しい道が目に入り、そのどれもがそれらしい道に思えてどちらへ進んでいいのか分からなくなる。息が切れ、どくどくと心臓が血を送る音が耳のすぐ側で聞こえる。喉の奥にわずかに鉄錆のような味も滲んできた。
「ちくしょう、どこ行ったんだ……!」
切れる息で語気を荒らげながら、出久は独りごちた。これだけ探したのだ、もうこの辺りにはいないのかも知れない。半ば諦めの気持ちで、それでも目だけは翔の姿を探す。
(だってこんな路地裏に入っていくなんて……絶対におかしい。一ノ瀬くんはやっぱり、何か秘密を持ってる)
