【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
それは本当に一瞬のことで、翔達が消えたのと反対方向を向き、早くも新しいパン屋の話題で盛り上がっているクラスメートたちが気づくべくもなかった。気づいたのはただ一人、飽くことなく彼の姿を目で追い続けていた出久だけだ。
翔の姿が路地の奥へと消える瞬間、彼の背中に黒い翼のような影がぬらりと生えた、気がした。
――瞬間、出久の足は彼を追って走り出していた。
「ごめん! ちょっと僕用事を思いだしたから先帰ってて!」
「デクくん!?」
「えー緑谷もー? せっかく皆で行こうって言ってんのにー!」
咄嗟にでまかせを叫んだ出久の背中に、お茶子の驚いたような声と、芦戸の文句がましい声がかぶさる。
あれは自分だ。出久自身だ。焼き切れそうなほどに熱を持つ頭の中で思う。
危険な目に遭うかもしれない。オールマイトや、他の雄英の先生にも迷惑がかかるかも知れない。出久が考えた通り、翔は雄英を(或いはオールマイトを)狙う悪い人間で、オールマイトがかつて対峙した敵と繋がっていて、だからワン・フォー・オールのことも知っていて、こちらを混乱させ判断力を鈍らせるために、出久にあんなことを言ったのかも知れない。その可能性は十分にあった。だからこそオールマイトは、生徒に漏らしてはいけないような情報を出久に話してまで、彼のことを忠告してくれたに違いないのだ。
分かっている。待つべきだ。それが最善なんだ。本当は。
それでも。
(何か困ったことがあったら、俺に頼るといいよ)
あの言葉が嘘だとは、やっぱり、思えない。
少なくとも、あのときの翔は、秘密を抱える出久を気遣って、出久の重荷を少しでも軽くしたいと思って、声をかけてくれたのだと出久は確信していた。
根拠なんてない。ないなら今から作ればいいとさえ思った。彼を信じたい、そのために彼が何者であるかを確かめたいという思いが、胸をいっぱいにして喉元までこみ上げてくる。その感覚は出久が、誰かにピンチが訪れたとなれば後先も外聞も一も二もなく飛び出していってしまう、あの抗いがたい衝動に似ていた。