【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
「なら一ノ瀬くんの兄弟も同然だな」
「初めまして~、芦戸三奈です! 一ノ瀬のクラスメート! えっと、太陽さん? 私服だけど、どこか学校通ってたりするんですか?」
芦戸が翔の後ろに首を伸ばして、太陽と呼ばれた少年に溌剌と語りかけた。びくりと肩が揺れ、ひどい怯えの色をたたえた瞳がクラスメイト達を見る。「う、え、あ、ぁ」と吃音症のように意味のない言葉を繰り返しながら、少年は金色の瞳をくるくると所在なげにさまよわせた。胸の前で組み合わせている両手が血の気を失い小刻みに震えている。
「あ……ごめん。太陽はちょっと、何て言うか……」
その明らかに尋常でない反応を隠すかのように、翔は少年を振り返って片腕を広げる。
「すごい人と話すの苦手なんだ。対人恐怖症、ってやつで。悪いんだけど、ひとりひとりゆっくり話してやってくれないかな」
対人恐怖症。その言葉が出てきた途端、好奇心満々に翔の背中にかくまわれた少年をのぞき込んでいたクラスメイト達は、海の波が引くように彼らから離れた。
「あー……なるほど」
「そうなんだ」
「オッケー、理解した」
「ごっめん一ノ瀬。そうとは知らずに矢継ぎ早に話しちった」
こういう心配りが迅速かつ自然にできるのは、さすが雄英生と言ったところなのだろうか。先ほど積極的に話しかけていた芦戸も、手を顔の前であわせて謝罪する。
翔は一瞬驚いたような顔をして、それから柔らかく口の端を綻ばせた。
「いや、芦戸は悪くないよ。むしろ気軽に話してくれたの、嬉しい。ありがとな」
翔は本当に嬉しそうだった。少なくとも、そこに嘘が含まれているようには見えない。
「さっきは急に話しかけちゃってごめんね、太陽さん。えっと、この辺は初めて?」
「……」
再び芦戸が、今度はゆっくりとした優しい口調で話しかける。少年はうなだれたまましばらく黙っていたが、やがてちらりと芦戸に目をやり、ほんの小さく首を動かした。
「……ん」
「そっかー! 一ノ……翔くんを迎えに来たの?」
「ん」
「すごーい! 偉いね!」
まるで小さい子どもに接するような砕けた言葉遣いになってきた芦戸を、横から瀬呂がたしなめる。
「芦戸、さすがに「すごーい」はねえだろ。子どもじゃねんだから」
「あれ、そう? えへへ、むつかしーな」