【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
「大丈夫だった?」
「間一髪だったな~」
「てか何だよあの運転手。感じ悪ぃ」
少年とともに無事に戻ってきた翔を、労いと驚きと運転手への悪口でもって迎え入れる。
「い、一ノ瀬くん。大丈夫?」
呼びかけてしまってから、しまった、と出久は思った。さっきのあわや事故かという危ない場面を目の当たりにして、彼と距離を置かなければならないということをすっかり失念していたのだ。
「俺は大丈夫だよ。心配してくれてありがとうな」
出久の心中など何も知らないというふうに、翔は屈託なく笑った。出久は思わず息をのむ。何か得体の知れない、激しくうねる感情が喉元までせり上がってきて、顔が歪んでしまうのを止められなかった。
「ていうか、その人だれ? 一ノ瀬の知り合い?」
「兄ちゃんとか? でも似てないな」
翔をひとしきりねぎらった後、クラスメイト達の関心は彼の後ろで身を縮こまらせている少年の方へ傾いた。関心を向けられた少年はびくりと震えますます身を縮めるが、翔より10cm近く大きい体躯は完全に隠れきることはできない。
「あ……こいつは、なんというか……その……」
翔は後ろの少年を確認するかのように左右に視線をさまよわせ、言った。
「……いとこなんだ。うちに居候してて。名前は西浦太陽」
嘘だ。
出久はそう直感した。なぜかは分からない。この一週間穴が空くかというほど翔を観察していたから、自然と観察眼が養われたのかもしれない。彼のあの、視線をさまよわせる仕草が何か嘘をつくときのものだと知っていて――。
(いや、違う)
似ていたからだ。目をせわしなくうろつかせ、最終的にある一点に視線を止めて、不安や罪悪感からくる胸の痛みに、僅かに耐えるようなあの表情。あれはまるで――。
(僕だ)
「へ~そうなんだ!」
「居候って、一緒に住んでるってこと?」
芦戸や葉隠が無邪気に問いかける。出久が感じ取った違和感はどうやら他の誰も気づいていないようだ。
「うん。そうなるかな」
翔は少年を背中に隠したまま、乾いた声で笑った。そこに宿るどこかよそよそしい感じに、やはり誰も気づかない。気づいているのは出久だけだ。