【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
つんざくような大音声が出久の耳のすぐそばではじける。それを聞いた少年はまるで呪いにかけられたように、びくりと震えその場で立ち止まった。次の瞬間、少年の体のまさに数センチ目前をトラックが轟音とともに通り過ぎる。
トラックは数十メートル走った後けたたましいブレーキ音をあげて停止した。間髪入れず窓から顔を出したのは五十代くらいの男の運転手だ。クラクションさえ鳴らさなかった自分の怠慢を棚に上げ、トラックの後方にいる少年を怒鳴りつける。
「あっぶねえだろうが!! 気をつけろ!!」
「ひ……ご、ごめ、ごめんなさ……」
何が起こったのか分からずぽかんとしていた少年は怒鳴りつけられ、声にならない悲鳴をあげながらすくみ上がった。震える声で謝罪を口にしながら、へなへなとその場に座り込んでしまう。
「すみません! すぐどきます!」
腰が抜けて道路の真ん中にへたり込む少年のもとに、翔が駆け寄る。トラックはさっさと行ってしまったが、その後ろや反対車線の車は嫌な顔をせずに待ってくれた。
「大丈夫か? 太陽。立てるか?」
「ごめんなさい……ごめ、ごめ、なさ……」
翔が優しい声で呼びかける。しかし少年はその声が聞こえないのか、頭を抱えうずくまりながら譫言のように「ごめんなさい」を繰り返す。怒鳴りつけられたことがそんなにショックだったのだろうか。それにしても怯え方がひどく極端に見える。
「太陽、俺だよ。分かるか?」
「ごめ……う、う、翔にぃ?」
「そうだよ、俺。翔だよ。大丈夫か? どこも痛いとこない?」
翔は柔らかな声で問いかけながら、壊れ物のように少年の肩に触れた。その優しい声に凍えた恐怖心が融けだしたのか、ようやく少年は顔を上げて翔を見る。
「急に怒鳴ったりして悪かった。ごめんな。外は車が通ってるから、今度は注意して渡ろうな」
「う、うん……ごめんなさい」
翔は少年を立ち上がらせ、足早に雄英の校門側へ戻ってきた。あわや事故かという危機一髪の事態を目の当たりにした1-Aのクラスメイト達は、ここにしてようやく胸をなで下ろすことができた。少年が突然道路に飛び出すなんて誰も想像していなかったので、皆の交わす声には拭いきれない緊張が色濃く残っている。