【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
「……あれ?」
そのまま校門にさしかかった時、出久が声を上げた。
「どうした、緑谷くん」
「あれ、誰だろう」
出久の指さす先には、校門の前を横切る道路があった。それを挟んで向こう側の歩道、校門の真っ正面に人がひとり立っている。
それは少年だった。体躯はすらりと高く顔立ちも大人びていて、ともすれば成人男性のようにも見えるが、グレーの七分袖のシャツに黒い半ズボン、かかとを履きつぶしたスニーカーという子どもっぽい出で立ちのせいで、見た目よりも幼く感じられる。それでも出久たちと同じか少し上の年齢だろうか。
「ほんとだー誰だろ」
「めっちゃ挙動不審だな。不審者?」
「いやどう見ても違うでしょ。何か困ってる。高校生かな?」
出久の指摘で少年に気づいたクラスメイト達が、にわかにざわつきはじめた。皆の言うとおり、少年は傍目からもはっきりと分かるほどに挙動不審だった。肩をぎゅうと縮こまらせ、金色の瞳をせわしなく左右にさまよわせている。今にも泣き出しそうな悲痛な表情は、確かに不審者というよりは親を見失って途方に暮れる迷子と言った方がしっくりくる。何かを探しているのだろうか。
「太陽?」
不意に、すぐ後ろから声がした。出久が振り返ると、背後で翔が愕然とした表情を浮かべている。何でお前がここにいるんだ、とでも言いたげな表情を。
太陽。彼がそう言ったのだ。
少年の目が、ぞろぞろと校門へ出てきた出久の一団を視界に捉える。おそらくはその中の一人、翔の姿を。
「翔にぃ!」
金色の髪を振り乱し、少年が車道と歩道を区切る縁石を跨いでこちらに駆けてくる。だが少年が横切ろうとしている道路は、不幸なことに普段から車通りの多い道路だった。案の定、向こうから大型トラックが速度をつけてやってくる。だが少年は一心不乱で前方しか見えておらず、自分の身に迫り来る危険に気がついていない。
それは本当に一瞬の出来事で、校門にいたクラスメイトの誰も、動くことはおろか声を出すことすらままならなかった。ただ一人、翔だけがすぐ前にいた出久と飯田の肩に両手をかけ、ほとんど前のめりになりながら叫んだ。
「ばっか、こっち来るな太陽!!」