第25章 一息
共食い発生から一ヶ月後ーーー
紬は執務室の椅子に座っていた。
何かを考えているのだろう。背凭れにめいいっぱい凭れ掛かり、天を仰いでいる。
そんな時だった。
静寂を割く様に、突如として鳴り響く叩敲に、紬は視線を天井から扉へと移した。
「……どうぞ」
扉の先にいる相手を、瞬時に悟ったのであろう。
何時もの様に「入り給え」等と云わずに迎え入れたのは、
「失礼するよ。おや、今日は中也君は一緒ではなかったのかな?」
「中也なら先刻、自分の部屋に戻りましたよ」
ポートマフィア首領、森鷗外だった。
自身の与えた任務により、一緒にいると思っていた人物が居ない理由を丁寧に尋ねた。
「別に、中也が一緒でなくても呼ばれれば此方から行きましたよ」
「否、なに。一寸運動がてらね」
ふふ、と笑う森に小さく息を吐いて立ち上がる紬。
「それで?何の用でしょう?私が動かなければいけない様な身内は『とっくに処分されている』ようですが」
「敏いね」
様々あるポートマフィアでの業務の中で、紬だけが担っている仕事が一つーーー内偵の排除だ。
先日、ポートマフィアの黒服が一人、裏路地で死んでいた。
「「魔人」が利用して、生かしておくわけがありませんからね」
「紬君なら扶けられたでしょ」
「勿論。でも生憎、同じ頃に、誰かさんがお出掛けの末に怪我までしてきた挙げ句、死にかけるという組織全体が脅かされる有事が発生しましてね」
「返す言葉もないよ」
「今のところ、他には居ません…と云いたいところですが」
「うん?まだ懸念することがあるのかい?」
ニコッと笑って見せる森に、小さく息を吐く紬。
「これは何れ時が来たら」
「そう、なら、その懸念事項は一先ず置いておこう。と、なると、」
「ええ。取り敢えずーーー目下の標的は「武装探偵社側」となりますね」
紬は、森の思考を正しく理解し、答えた。
それに対して、森も小さく頷く。
「うちに被害が出ないなら良いのだけど、そう云うわけにはいかないだろうねぇ」
「「魔人」の目的が判らない以上、油断はできないかと」
「困ったねぇ」
本当に困った顔をした森。
然し、直ぐに「そう云えば、」と話題を転換した。