第23章 始動
「ねえ、お姉さん」
「!…キャッ」
ぐいっと引っ張り、もう片方の手を看護師の腰に回す。
バランスを崩し、太宰に抱きつくような姿勢になる看護師は既に顔を赤らめていた。
その光景を軽く欠伸をしながら詰まらなそうに見ている紬。
太宰は引っ張った手を離し、スルッと頬を撫でる。
まるで愛おしいものを触るかのような満面の笑みで、撫で付けると、顔を寄せ、触れるか触れないかのギリギリの耳元で、
「通信端末、返してもらえます?」
囁いたーーー。
「あ、あっ」
態とらしく、手に触れながら通信端末を取り返す太宰。
ポーッと太宰を見つめる看護師。太宰は笑顔を崩さない。
「有難う、お姉さん。先刻も話した通り、人命が掛かっているんだ。通話の許可を」
「はい……」
そう告げたその時、タイミングよく看護師のピッチにナースコールが入り、ハッとした顔をする看護師。ようやく現実に戻ってきたようだ。
慌てて部屋を出ていく姿を、二人して見送った。
部屋の扉が先程と違い、小さなパタッという音を立てて閉まると紬は呆れた顔をして、云った。
「流石に、ちょろすぎないかい?」
「紬を男と見紛う程、人と深く関わったことのないような人だ。口説かれる様な経験が無いのだよ、きっと」
太宰もやれやれ、といった風に首をふるふると振ると、今度は紬を抱き寄せた。
「何っ……んぅッ!」
軽く触れるだけの口付けから、深く貪り始める太宰。
暫く続け、漸く解放した頃には既に肩で息をする状態であった紬。
「口直し」
「……只の口実でしょ」
「勿論、そうだとも」
フフッと笑って、最後にと軽く触れるだけの口付けを交わすと太宰は突然通話を切ってしまった谷崎に電話を掛け直した。
数コールの後、応答する谷崎。
『太宰さんッ。そのッ、大丈夫でしたか??』
先程の看護師の怒鳴り声が聴こえていたのだろう。若干、怯えつつも電話に出た谷崎。
「もう大丈夫だとも。で、何の話の途中だったかな」
『彼の人って話です』
「嗚呼、そうだったね。彼の人ーーー夏目先生は探偵社設立の後楯となった伝説の異能者だ。神出鬼没で所在不明。その異能力すら不明だけど……一説には万物を見抜く最強の異能者だとか」
そう話しているときだった。