第5章 水色の違い【竜ヶ崎怜】
部活動も終わり、制服に着替えて校門へと向かう。
生徒玄関を出ると、既に彼が校門脇で私を待っているのが見えた。
これは毎日欠かさず行う事だ。お互いの部活が終わると校門脇で相手を待つ。
大抵は彼の方が先に終わるので、なるべく待たせないようにしなければならない。
まぁ、待たせたからと言って私が急いで来た風を彼に見せてしまうと逆に彼が気を遣ってしまうので、彼の姿が見えてからは余裕を持って歩を進めるようにしている。
空「怜、お待たせ。いつも待たせてごめんね」
怜「空さん。いえ、僕が好きで待ってるんですから、空さんが気にする必要は全くありませんよ。」
彼の優しさには、いつも尊敬するし、感謝もしている。
彼の存在は私にとってはとても大きいものだ。
私も、彼にとってそんな存在でありたいと思う。
空「……ありがとう。じゃ、帰ろっか」
怜「そんな、お礼を言われるようなことは何も……そうですね、行きましょう」
二人で並んで歩き出す。
空「水泳部の方はどう?順調?」
ふと気になったので聞いてみる。彼の方を向くと、向こうもこちらに顔を向けてくれた。
怜「まぁ、順調と言えば順調ですかね。あまり進展は無いですが……後退している訳でも無いので。相変わらず、バッタ以外は泳げませんけど…」
と、怜は苦笑する。
一見完璧に見える彼にも、幾つか欠点や短所はある。
泳げないこともその中の一つだが、彼はそれも鑑みて自分と向き合うことを決めた。
周りからすればとても勇気のいることだし、怜自身も簡単なことでは無かった筈だ。
それでも努力を怠らないのは、目指すものが目に見えているから。羨望の対象が、常に自分の傍に居るから。
空「そっか……楽しそうでよかったよ。いつか、怜の尊敬するその『遙先輩』を紹介してよ」
彼が水泳部に入ることを決意したきっかけとなった人物、『七瀬遙』。
同じ学年ではあるけれど、あまり見かけたことは無い。
本当に、いつか会ってみたい。会って、私もその泳ぎを見てみたい。
きっと、私も魅了されるのだろう。否、誰もが魅了されるのかもしれない。
それなら………私も、とことん魅了されたい。