第5章 水色の違い【竜ヶ崎怜】
彼の顔に目を向けてみる。
怜は少し驚いた様に目を見開きながら私を見つめていた。
その様子が不思議で小首を傾げてみると、彼の目が輝きに満ちてきた。
怜「はい!是非、紹介させて下さい!遙先輩自身は、あまりいい顔はしないかもしれませんが……先輩の泳ぎを見れば、きっと空さんも惹かれるはずです!」
私の手を掴んでずいっと顔を近付けて語る彼。
その勢いに半ば圧倒されるけれど、やはりそこまで怜が入れ込んでいるのだから、俄然興味が湧いた。
でも、一つ訂正しなければならない事がある。それは………
空「ふふ、ありがと。……でも、私が惹かれるのは、怜だけで充分だよ。」
そう言って微笑むと、彼は一瞬固まり、みるみる顔が紅く染まるのが見てとれた。
そんな顔をされると、こちらも気恥ずかしくなってくる……
怜「……僕も、空さんをもっと惹くような泳ぎを研究しなければなりませんね…」
そんなことを呟く彼。
別に、研究までしなくていいと思うけれど……そういう所が彼らしい。
空「そこまでしなくていいけど……いつか絶対、上達した泳ぎ見せてね」
そう言って彼の手を握る。
怜「…!……はい、絶対」
私の手を握り返しながら微笑む彼は、いつもよりずっとカッコよく見えた。
それからは私の家に着くまで手を繋いで歩いた。
家の前まで来ると、彼を振り向く。
微かに残る青空に彼の髪の色がとても似合っていた。
空「今日もありがと、怜。研究、頑張ってね」
そう言って微笑む。彼も微笑み返して
怜「えぇ、ありがとうございます。尽力しますね」
と宣言した。
少し名残惜しく手をするりと離して手を振って別れた。
玄関の扉を開ける前に、一度に振り返って彼の後ろ姿を見た。
その背中は、出会った頃よりずっと大きく見えた。
(……私も、陸上頑張んなくっちゃ)
青空の色と、水の色。
微かに違うのかもしれないけれど、どちらも雄大に私達を包み込んでくれる。
その色に甘んじて、私達は共に歩んでいきたい。
《Fin》