第5章 水色の違い【竜ヶ崎怜】
皆が部活動に励む放課後。
陸上部である私は他の部員たちと共に校庭のトラックを走っていた。
走ることは好きだ。風を感じられるし、体が軽くなったような気がして気分がいい。
苦しい事も多いけれど、その分成し遂げた時の達成感は何物にも変え難い。
男女関係無く、同じ目的を持って目標を目指す一体感も、割と好きだ。
一ヵ月前、一人の男子部員が退部した。
その理由は、『水泳部に転部したいから』。
彼の名前は、竜ヶ崎怜。一つ年下の私の彼氏である。
陸上競技選手としての成績も、勉学の方の成績も立派に両立出来る逸材だった。
正直彼が部内から居なくなってしまって残念だが、彼の強い希望なら、全力でそれを応援したいと思う。
彼にその事を言ったら、真剣な顔をしてこう言った。
『絶対に、頂点の景色を見てきます。』
『頂点の景色』。そこにはいったい何があるのだろうか。
いったいどんなものが見えるのだろうか。
一人では見られないという事だけは、十分理解している。
周りの支えあってこその景色である。
きっと素晴らしいものに違いない。
私はまだ見られる保証は無いけれど…彼なら、否、『彼ら』なら、その景色を近いうちに見られるだろう。その点心配はない。
ただ……怜自身が少々心配だ。なんせ彼は所謂『カナヅチ』。泳ぐことが得意ではない。それは本人が一番よく分かっているだろう。
けれど、それでも水泳部に入りたいと彼の決意を固める程のものがあの部にはあった。
それはとても喜ばしいことだ。彼なら上手くやっていける。短所ともとことん向き合って、改善させていくだろう。
私の心配が杞憂に変わる日も、そう遠くないかもしれない。