第3章 夏の約束【橘真琴】
練習が終わった放課後。
指摘されてから益々真琴先輩のことを意識してしまっていた私を見かねて、『今日はもう休め。家でゆっくり考えてくればいい』と遙先輩に先に帰るよう促された。
クールに見えながら意外と人のことをよく見ている遙先輩。水泳の技術や意欲は人一倍なのに、『自分は部長には向いていないから』と、部長は真琴先輩に任せて副部長の位置に就いている。
(幼馴染みか……信頼関係とか、凄いんだろうな)
相変わらず悶々と考えながらジャージを着替えに更衣室へ向かう。
着替え終えて教室へ戻ってもそのまま帰る気にはなれなかったので、誰もいない教室で一人考えを整理していた。
しかし、まともな感情のけじめがつく訳でもなく…気付けば部活の練習もとっくに終わっている時間になっていた。
先輩に一目惚れしてから、時間が過ぎるのがとても早くなった。
それほどいつも先輩のことを考えているということなのだろう…考えている分にはいいが、今回のように周りに迷惑がかかるのは本当に申し訳ない。
(遙先輩に言われたように、自分から仕掛けるしかないのか…)
憂鬱な気分を引きずりながら荷物を持って教室を出ると…
ドンっ、と誰かに思いきりぶつかってしまった。
空「あっ……ごめんなさい!前見てなくて…」
と弁解しながらぶつかってしまった相手を見上げてみると…
真琴「ううん、こっちこそごめんね……って、空ちゃん!」
(ま、真琴先輩…!)
まさか今モヤモヤと考えていた意中の人が目の前に都合よく現れるなんて、そんなことがあるのだろうか…
でも現実に、目の前に真琴先輩がいる。
私の好きな人が、私たち以外誰もいないこの場所にいる。
(言うなら、今しかないのかも…)
神様がくれたこのチャンスを、踏みにじるわけにはいかない。
神様が味方してくれていると思ったからか、自分の想いに踏ん切りを付けたかったからか。
真琴「よかった、ハルが空ちゃんの帰る姿が見えないって言ってたから、心配で探しに…」
#NAME1「真琴先輩!」
先輩の言葉を遮って、名前を叫んでしまった。