第2章 ~ゆるり、ゆるりと籠の鳥~
【近付く距離】
私はアレ以来、少しだけ石田様との距離が縮まった様な気がする。
そして石田様と近づいた距離の分だけ彼と離れた様な気がした。
この気持ちが何なのか分かりそうだったのに、彼とは会う事がなくなった為か、私の淡い気持ちがあやふやになってしまったのだ。
「はぁ…どうしたのかな…」
私は庭の池の鯉に餌を与えながらため息をついて居ると、背後から知った気配が近づいてきた。
振り返り、彼の名前を呼ぶ。
「石田様…」
石田様の事も考えていたが、私が逢いたいと思っていた人物は彼ではなかった。
少しだけ胸がギュッとなったけど、こればかりは誰のせいでもなく、自分の気持ちのせい。
「まだ、名で呼ばないのか」
…あぁ、そうでした。
「三成…様」
この名前で呼ぶと例の事件を思い出し、その度に私は死んだ魚の目をしている。
勿論今も。
「何度も言わせるな。敬称はいらん」
そう、彼は私に呼び捨てを要求していた。
他所様の夢小説でもあるが、何故名前を呼び捨てで呼ばせようとするのか、全く理解できない。
無理です、と訴えても例の許可しないだの、拒否は認めないだの言って私の発言は全て却下されていた。
ホント、無理だよ。しかも噛んだばかりだし。なにが楽しくて主を呼び捨てにしなきゃならんのだ。
そう思いながら死んだ目で彼を見つめていると何かを言いたげにソワソワしだした。
「三成様?」
私が彼の名前を呼ぶと閉じられていた唇が開かれ聞き取れるか取れない位の声で言葉が聞こえた。