第2章 ~ゆるり、ゆるりと籠の鳥~
【優しい時間】
私が城へ戻り執務室へ向かう途中、少し離れた所に名前の姿を見付ける。すると、足は自然と早歩きになり、気持ちが高鳴る。
名前との距離が短くなり声を掛けようとすると急にひれ伏し、何を思ったか謝って来たのだ。
名前のこの一連の動作が何故だか可笑しく、私は笑いを耐えるのに必死だ。
「何を言っている」
私は名前の目の前にしゃがみ、両手を脇に差し、彼女を立たせてやるのだが、余りにも軽く身長差のせいか犬、猫を抱くように宙吊りの形になってしまった。
そのままの形で私の目の前まで持ち上げると名前の顔がみるみると紅潮し、わたわたと忙しない動作が栗鼠の様な小動物を連想させた。
名前を知れば知る程、愛らしく、私の中の気持ちが暖かく膨らむ。
笑いを耐えていると流石に可哀想になり地へと降ろした。
柔らかい時が流れる。
忙しい日々もこうして名前と居るだけで安らぎを感じる。
私が彼女に触れようとした時、名前の手が私の胸に触れると、指先が私の家紋…秀吉様から頂いた大一大万大吉の文字をなぞり、頬をすり寄せた。甲冑の上からでも彼女の温もりが伝わってくる。
そして、何故、その様な哀しい顔をしている…。
私達はゆるく、抱き合った。