第2章 ~ゆるり、ゆるりと籠の鳥~
あの後、私は何回も、何回も口を濯いだ。だが、あの独特のニオイと苦味は決して取れる事はなくいつまでも残っている様な感じで気分は最悪だった。
城に戻った私は身を清めるべく、湯殿に向かうと廊下の向こうから知った姿が近付いて来た。
私は慌てて膝を折り、ひれ伏す。
あぁ、ホント最悪だ。今は誰とも会いたくなかったのに、こう言う時に限って誰かしらに会うのだ。しかも
この城の主、石田三成に会ってしまうとは私の不幸もいい加減笑えない。
「あ、も、申し訳ございま…せん」
私は何故か緊張してしまい、いきなり謝ってしまった。
何を言ってるのだろう…。
「何を言っている」
そうですよね、何で謝ってるのでしょうかね。
「って、え?」
頭上から声を押し殺したような笑いが聴こえてきた。
彼がしゃがむ気配がすると私の両脇に手を差し込み、そのまま上へと持ち上げられる。
「え、はっ?」
何、この状況。
私は犬、猫を抱くように石田様にぶら下がって足をバタバタさせている事しか出来なかった。
意味不明で恥ずかし過ぎる…。
「くっ…」
笑いを堪える石田様ってなかなかレアだ。
やっと地に足が着くと私の目線は石田様の胸の下辺りで結構身長差があるのだな、とぼんやり考える。
視線を徐々に上に見て行くと彼の家紋が目に入る。
秀吉様から頂いた、大一大万大吉の文字。彼は悲しいくらいに、秀吉様の事を想っている。私はこの世界の未来を知っている。避けては通れないあの戦い。そして、悲しい運命が彼を待っている。けど、私は何もしてあげられない。私に何が出来よう。
私は思わず彼の文字に触れ、頬を寄せた。
やはり、皆、幸せにはなれないのかな…。