第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
シュルっと布擦れの音がリズム良く響く。
着慣れたものだ。
城に連れて来られた私はその次の日から元就様の城の女中として働く事になった。
最初は着物なんて向こうでは着ることが無かったからかなり手間取った。
こっちを締めたらあっちが弛み、弛みを直すとあらゆる所が解けて行く。
途中で放棄して逃げようとするのだけど、教わっていた人が素敵な視線で私を殺そうとするものだから、モソモソと頑張っていたよ、私。
あぁ、私の着付けの先生はあの元就様。
「我が直々に教えてやろう」
そんな事を言うものだから今で動いていた心臓が一瞬にして干からびたのは言うまでもない。
そのお陰で綺麗に着れるようになりました。
「よし、今日も頑張ろう」
今日は何時もよりは早起き。
だけど、二度寝する気にも慣れなく、身支度を済ませた私は手ぬぐいを握りしめ庭にある井戸へと向う。
暫く歩いていると廊下の先に知った姿がこちらへと向かって来るのが見えた。
この時間に起きていらっしゃる人は他にはいないだろう。
「おはようございます、元就様」
私は廊下に膝を折り、三つ指を付いて頭を下げる。
この姿も慣れたものね。
「あぁ、名前か。まだ夜も明けぬゆえ、日輪を拝むには早い刻よ」
別に日輪を拝む為に早く起きた訳ではないですからね。
早く起きたからと言って、何でも日輪信仰者と思わないで頂きたい。
某糖尿予備侍の様に死んだ魚の目をしていると元就様に立てと命じられた。
え?私何かやらかした!?
死んだ魚の目以外は大丈夫な筈…。
私はビクビクしながら命に従うと彼は私に手を伸ばした。
「っ…!」
伸びた彼の手は私の頬を優しく撫でる。
え、な、何が起きているの?
「名前…」
そう言った元就様。
余った彼の片方の腕は私の腰へと回され、頬に触れていた手は次第に下がると今度は指先が私の唇に触れた。
「元就様…」
え…私一体どうしたら良いの?
頭の中はオロオロするも、視線は元就様から外せない。
顎を押し上げられ元就様との距離が近付いた。
「其方は…」
そう呟いたと思ったら私と元就様の距離は無くなっていた。