第2章 ~ゆるり、ゆるりと籠の鳥~
【名のある想い】
自室の襖を乱暴に開け、力の限り閉める。若干外れかけた事はこの際気にしない。
「私は、何を…」
あの女の血が原因なのか。
あの時、引き寄せられる様に血を舐めてからだ。
私はいつの間にか部屋を抜け出し、あの女の部屋にいた。
律儀にも起きるのを待ち、女に話しかけた。
案の定、女が私に怯え、過呼吸を起こした。そして口を塞いだが、それがいけなかったのだろうか。余りにも甘い匂いと唇から伝わる甘さに身体中、神経、脳細胞とあらゆる機能がそれに奪われていった。
女の口を塞いでいる時、私はこの女が欲しいと。そして頭の中で誰かが抱いてしまえ、穢してしまえ、と私を唆した様な気がしたのだ。その時私は必死に贖い辛うじてその出口を見つけ我に返る事が出来たのだが…。
私はこの短い時間であの女に対する感情がガラリと変わった。
秀吉様、半兵衛様、刑部とは違う感情だ。
「私にもまだ…」
この様な感情があったとは…な。
それが無理矢理引き出された感情だとしても、私は構わなかった。
総ては秀吉様、半兵衛様の為にと気を張り続け、日々の努力は怠っていないはずだ。
現を抜かす訳ではない。
ただ、もう少しこの温い感情に浸かっていたい。
あの女の事が知りたい。
もう少し、もう少しだけ、この名のある想いを抱きたいだけだ。