第2章 ~ゆるり、ゆるりと籠の鳥~
【蝶よ、花よ】
私は大谷様のお陰で少しだけ正気を取り戻した。
「っ、くっ…」
この世界へ来て初めての恐怖。正直、石田三成が怖くて仕方ない。
今考えると、大谷様が来なかったら私はあの世行き。
そう思いながら切れた首に手を宛てがいながら思った。私がこの世界で死んだらどうなるのであろうか。
この世界のあの世に行くのか、現代へ帰還するのか。死んだまま現代へ行くのか。色々な考えが頭の中を駆け巡る。
いや…死にたくない。
「私は帰るんだ…」
死んでたまるか…!
震える足に力を入れ、その場に立つと私にあてがわれた着物を脱ぎ始める。
先程の件で手が、指先が、全身が震え上がるのが鬱陶しい。
畜生と思いながらゆっくりと着物を手に取り、皺にならない様に衣紋掛けへと通した。
長襦袢となった私は寝る為に用意されていた布団に入る。
天井を見上げると走馬灯の様に色々思い出す。
あぁ、あの夢は今日も見るのか、元就様は裏切った私を殺しに来るのか、石田三成の鋭く冷たい瞳が私を突き刺したり、恐怖、恐怖、恐怖…。
コワイ、コワイ…。
あぁ、誰か…誰でも良いから私を助けて。
どれだけ元就様の所で温湯に浸かっていたのかが良く分かる。
「うっ…っく…」
私はこの世界に来て、初めて泣いた。