第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
外を見ると未だ止まぬ雨。
私は何時まで此処にいるのだろうか。
そして、
どうしてこうなった。
「ん、何だね」
気に召さなかったかね、と美しい姿勢でお茶を点てる。
あの茶釜は彼の有名な茶釜なのか。
そんな事をぼんやりと考えて居ると、目の前に点てたばかりの茶が差し出された。
「傾国の花」
お茶を眺めていると彼は言葉を続ける。
「その渾名に相応しい」
艶やかな朱に、幾度に重なる白き花弁。
「卿の為に用意したのだよ」
珠の肌に唇は熟れた果実の様。
「私は松永弾正久秀…」
卿の名は、と聞かれたので答える。
そう言えば、自己紹介して居なかった。
「ふむ、名前か…傾国の花に相応しい」
松永さんは顔が真っ赤になるようなセリフをこれでもかと言うくらいに繰り返す。
あうぅ…。
心臓が持ちません。
「あ、あのっ!」
彼にその渾名何とかなりませんかと、私は勇気を出して聞いてみたんだ。
「…白き花一輪、むせ返る程の甘い、甘い匂い。その甘さを知った者はどのような事をしてでも手に入れよう。そして、城が傾こうともそれを欲する」
早く言うと無理だと言う事だ。
豪華な着物、細部にまでこだわる綺麗で広い部屋。
優しい気持ちにしてくれるお香の匂い。
そして美味しいお茶とお菓子。
それでも私はあちらが恋しい。
私は帰れるのだろうか。
…帰る?
何処へ?
現代…?
それとも…