第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
「何奴か。用が無いのなら即刻立ち去るが良い」
我は茶碗を静かに置き、天井を眺める。
「あは、流石毛利の旦那だねー」
ちっ…面倒な奴が現れたわ。
「我は忙しい」
忍は天井から一回転しながら降りて来るとそのまま柱に寄りかかりながら我に話しかけてくる
。
「そんな事言って良いのかなー」
毛利の旦那、と言い我に何かを投げて寄越した。
「…何故貴様がこれを持っている」
これは我が名前にやった布袋だ。
「貴様…」
言葉を続けようとした時、鉄の臭いがした。
誰だと思い引戸の方へ視線を向けると
名前に付けていたくの一が這いつくばっていた。
「も、もと…なり様…申し訳…ございませ…ん…」
我の部屋が瞬くも間に鉄錆の臭いが広がる。
「名前様が…風魔と、まつ…」
そう言い残し気を失った。
「へぇ、アレで良く生きていたねぇ」
奴は手を叩きながら感心、感心と続ける。
「猿よ何を知っている」
我は輪刀を持ち、猿に切りかかろうとするも、素早くそれを躱す。
「おーっと、危ない危ない」
猿はまた天井に戻りこう言う。
「あー、名前ちゃんだったっけ?早く行かないと間に合わないかもよー?」
再び輪刀を手にし、構える。
「早く言え」
猿は両手を上げ参ったと言う。
そしてこう続けた。
「松永に攫われた」
あは、と言いながら今頃やられちゃってたりね、と言う。
この時の我は鎧も、刀も、城も忘れ、厩の中でも一番の早馬に跨り、夢中で走らせた。
途中何度も馬を替え、松永の居る城、信貴山城へとたどり着く。
雨が降るのも忘れ、着物も髪も濡れ、安芸からの道程と名前の安否で我の気力と体力はとうに限界を超えていた。
我は心の中で名前、と呼び続け、名前の無事を祈るしか無かった。
頼む…無事でいてくれ…