第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
降り続く雨。
それが私を捉える。
此処は、私は一体どうなったのだろう…。
ぼんやりとする意識の中でぽつり、ぽつりと状況を把握して行く。
私は河原に居て、それから…
「目が覚めたかね」
そうだ、この声だ。
「ふむ、風魔の言った通りか、実に興味深い」
私は上半身を起こし彼を見つめる。
彼が私に近付き、目線に合わせて腰を下ろすと品定めをするかの様に私を見る。
そして壊れ物を扱う様に頬に触れた。
私の頬に優しい温もり。
言っている事は良く分からなかったが、この人の温もりは私の存在を証明してくれる様な、そんな気がした。
「しかし、卿が放つこの匂いは私には少々刺激が強い…」
そう言えばあの時もそんな事を言っていた様な気がする。
「あ、その、ニオイって…」
彼は頬から手を離し、その場に立つと私を見下ろしながら語る。
「本人は露知らず、その匂いに囚われ、溺れ行く」
傾国の花…
「その甘い、甘い匂いで私をも…」
また、彼は私の元へ腰を下ろした。
「!!」
何が起きたのか分からなかった。
彼の顔が私の目の前にある。
身体に掛かる重力、動かない手。
私は彼に組み敷かれていた。
「傾国の花…私が付けた渾名だが」
気に入ったか、と私の耳元で吐息と共に囁く。
「んっ…」
自然と生理的な声が出てしまい、私の顔は一瞬にして真っ赤になった。
「あ、や…だっ…」
恥ずかしくて顔を隠したいのだが彼が掴んだ手がそれを邪魔する。
「傾国の花はその様な鳴き声をするか」
あの男の下で何度も、何度も甘美な声を上げているのかね。
「この様に…」
「あ…」
外は雨が降り続く。
彼曰く、遣らずの雨だそうだ。
私ををひきとめるかのように降ってくる雨。
春蘭さん達は無事なのか、彼の目的は何なのか。
このまま私は揺らめく炎に堕ちて行くのか。
ただ、ただ、私は時が過ぎるのを待つだけだった。