第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
まだ笑ってる…。
しかも声を押し殺しての笑い方。
流石にムカついたので、彼を睨む。
睨んだ所で彼にとってはいちいち面白いらしく、ひーひー言いながらごめんねと心のこもっていない謝り方をした。
悪いと思うならその棒読みな謝り方をやめろ下さい。
「あは、お嬢ちゃんの食べてる大福も美味しそうだね」
そう言って話を逸らす。
猿飛佐助イコール、失礼な奴と認識した。
顔と声は良いのだが。
「た、食べますか?」
奴の視線が私の大福に集中して食べにくい。
ンなに欲しいか、コノヤロー。
私は余っている大福を差し出すと彼は物凄く笑顔になり首を横に振ると私にこう言った。
「んー、これも美味しそうだけど」
俺様、こっちが良いな。
そう言うと私の手を掴み食べかけの大福を一口で食べた。
………。
はぁっ!?
食べた、だと!?
何て言うデジャヴュ!?
彼は口についた餡子を親指で拭うと満足そうにする。
「何すんですかっ!」
私は顔を真っ赤にして席を立ち、彼を見下ろす。
彼はあは、と言いながら美味しそうだったからと良く分からない事を抜かす。
「さて、俺様まだ用があるから」
そう言うと私の肩に手を置き私耳元で囁いたんだ。
「…っ!」
急いで振り返り彼を探すと片手を振りながら消え去って行った。
彼は何かを知っている?
てか、大福返せよ…。
猿のせいで至福の一時から現実に戻された私はそれを補う為に近くの河原へと向かった。
はぁ、とため息をついて手元に転がる小石を拾い河原に投げた。
猿飛佐助…彼は私の何かを知っているようだった。
はぁ、と2度目の溜め息。
川の流れを無心に眺める。
ジャリ、
河原の砂利を踏み締める音。
「!?」
突如冷たい風が吹き荒ぶ。
「卿が傾国の花かね」
一つ、二つと気配が消える。
「ふむ、珍しい」
全ての気配が無くなる。
私、一人だ。
震える手、地面に縫いつけられた様に動かない足。
「傾国の花はその様な匂いを放つか」
その人は私の前にしゃがみ、目線を合わせ私の顎を掴む。
「あの毛利元就が手元に置く」
この人の後ろに現れた黒い影が私の視界に霞んで映る。
もう、逃げられない…。
鼓膜が破けそうな音と共に、私の意識は途絶えた。