第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
張り巡らされた糸は私を絡める。
この世界に来てから気配に敏感になった私は、最近いくつもの視線を感じる様になった。
一つは勿論春蘭さん。
彼女の他にも多数の気配が私を見ている。
元就様からあの花を見せられてから一気に増え、今に至る訳。
あぁ、監視されているんだ。
まぁ、当然と言えば当然よね。
私は異端児だから表では優しく扱って貰っているけれど、実際は危険人物として見られて居るのかも知れない。
それだったら仕方ない。
気になると言えばきになるけど、そのままで居るしかないだろう。
私はそんな事を思いながら洗濯物を干しているとお菊さんがやって来て私にお願いをされた。
「名前様、此処は私が代わりますので城下でお茶請けを「行って来ます!!」…」
勿論即答。
お酒とは違う気分転換になるし、それに賑やかな所は嫌いじゃない。
それに、この気配も人々に紛れ込めばマシになるかも知れないしね。
私は部屋に戻り箪笥の引き出しを開けてよそ行きの小袖に手を通す。
前に自分のお給金で仕立てた物だ。
色は白に近い紫で流水と共に散りばめられた白い小花が可愛らしい。
「今日は簪も変えよう」
何時もは目立たない黒の玉簪だが、今日は小袖と同じ様な淡い紫色に、金の小花の蒔絵がついた玉簪を夜会巻き風に挿した。
仕上げに唇に薄く紅を引く。
私も一応女なのでたまには洒落付いても良いだろう。
元就様から頂いた巾着に金子を入れてウキウキで城下へ向かった。
あぁ、今日はお団子を買い食いしよう、そんな事を思いながら門を潜ると、門番の人が別嬪さんと褒めてくれたので彼には特別にお土産を用意しようと思った。