第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
「春蘭」
我が声を掛けると音もなく現れる。
「はい、此処に」
忍が現れたと同時に我は持っていた筆を硯箱に戻す。
我はあれに大事ないかと尋ねると、今の所特にと返って来た。
我はそうかと言い、安堵のため息を漏らすと、少し離れた位置で微笑む忍がいた。
「何を笑っておる…」
すると忍はあの日の一部始終を名前に話したと言う。
そして名前が我を可愛らしいと心の声を漏らしていたと。
「ちっ…」
表情が崩れるのを必死に片手で隠しながら舌打ちをする。
その間忍は声を殺しながら終始笑っていた。
「良く聞くが良い…あれに目を付けられておる。分かっておろうな」
忍は御意に、と一声を残し姿を消した。
一人になった部屋に引き出しを開ける音が響く。
中から取り出したのはあの時の花。
そしてもう一つ…
名前はいつの間にか奴と接触していたのだ。
この二つの狙いは名前で間違いない。
一つはこの黒い羽根の持ち主、風魔小太郎。
もう一つはこの花に纏わせた人物。
何奴か分からぬが、大体は特定出来た。
纏っていたのは
「闇の…婆娑羅…」