第4章 ~くるり、くるりと悠久の輪廻~
【参拾】
「左近、ヒナギクは行ったか…」
そう言ったのは、音も無く気配も無く現れた刑部さんだ。
「ええ…。たった今」
俺はそう答えると刑部さんはあの独特な笑いをし、俺の隣へとやって来た。
「ワレには挨拶も無しに、ヌシには甘い甘い土産を置き、狡いよナァ」
狡い、ズルイ。ヒッヒッヒッ。
…え、
えっ?
「土産って…」
ちょっと、良く考えろ、俺!
「ヒッヒッ。これは早急に三成に報告しないと…先の三成の妻が左近何ぞに…ヒッヒッヒッ…」
斬滅よ、ザンメツ…ヒッ!
そう言いながら御輿を揺らし三成様の部屋へと向かう刑部さん。
と言う事は、一部始終をみられ…っ!
「ちょ、刑部さん勘弁して下さいよ!!」
俺マジで生命無くなりますって!!!
俺は三成様に聞こえない程度に叫び、刑部さんを止めに行った。
「なに、冗談よ、ジョウダン」
刑部さんの冗談は本当に冗談じゃ済まされないので生命がいくらあっても足りない。
「つぅか、急に止まらないで下さいよォ!」
御輿に鳩尾入ったし!
「ゲホッ…オェ…」
数回咳き込んだ俺は生命が繋がった事に安堵し、縁側に腰を降ろした。
「…刑部さん、アンタも死なないで下さいよ」
俺らを遺して。
俺はそう言うと刑部さんは溜息を一つ零す。
「戦場に立つ身、その言葉はどれ程酷か。はぁ、最善は尽そ」
三成の為に、ヒナギクの為に。
「次いで、ヌシの為にも、ナァ…」
そう言うと刑部さんは来た時と同じ様に音も無くこの場所を後にした。
「適わねぇな」
最後に見せた刑部さんのニヤリとした笑いがカッコ良くてやはりこの人にも三成様にも敵わないのだと嫌気がさすほど解ってしまった。
「…あぁ、止んだな」
ふと視線を空へ向けると何時の間に雨が上がり、朝を知らせる太陽が顔を出していた。
名前…俺も誓うよ。
三成様の未来の為、
名前の未来の為に…。