第4章 ~くるり、くるりと悠久の輪廻~
【弐拾玖】
私が最後に愛した貴方の温もりを余韻に浸りながら私はこれからの事を見据える。
私はこれから彼にお目見えする為に、あの人の所へ行かなければならない。
そして私と彼の架け橋となって貰う訳なのだが、もしかしたらそこで私は生命を落とすかも知れない。
だけど、引き下がるわけにはいかない。例え、あの人と刀を交える事になろうとも私は生きなければならない。
着替え終わった私はぐっすりと眠る三成様の枕元へ膝を折った。
気を失った様に深い眠りに就いた彼の顔を覗き込むと目の下には濃い隈が出来ていてろくに睡眠も取らなかった事が解る。これでは皆心配するのは当然だ。
私は三成様の頬を撫でると彼は少しだけ身じろぐ。
「三成様…」
ほんのりと暖かい頬の温もりを最後に私は部屋を後にした。
部屋を出でて廊下を少し歩くと柱に寄りかかる左近がいた。
「もう、行くのか…」
そう私に問う左近。
何時から此処に居たのだろうとささやかな疑問。
イヤ、ささやか所ではない。
もし最初からだったら羞恥で死ねる。
てか、左近が死ね。
そんな殺気を飛ばしていると左近は狼狽えながら今来たばかりだからと必死だ。
まあ、仕方ないから信じるよ、左近。
「うん、やらなきゃ行けない事が多すぎて…」
「名前、アンタ三成様のこ…」
「っ‥‥左近っ!」
そう言った左近の言葉を被せるように私は彼の名前を叫んだ。
「私の恋の魔法はもう解けてしまったの…」
三成様も解っている筈よ。
そして、私達がこれから何をすべきか。
そうか、と左近は呟き降りしきる雨の空を眺め言葉を続けた。
「俺は、てっきり半兵衛様だと思ってた…」
傍から見ればそうだと思われても仕方無い。
私の記憶が後退していた時、私はわたしの中に眠る様に存在していた。
その時でも溢れかえる程に感じたわたしの想い。
誰も入る隙なんて無かった。
時を超え、次元も超えた" わたし"の初恋の人だから。
「半兵衛様は…私では" わたし" の想いには勝てない。彼は " わたし "だけの人よ」
私は灰色に染まった空を見上げる。
あの雨雲の上にはキラキラと輝くお日様が、愛し合う二人を照らしているのだと祈った。
「左近、三成様の事をお願いね」
そう言うと解ったと言うように無言で頷く。
「もう、行くね…」