第4章 ~くるり、くるりと悠久の輪廻~
【弐拾伍】
あの人を思いながら再び視線を灰色の空へ向けていると、少し先の方で私を呼ぶ声が聞こえた。
「覚悟を決めたんだな、名前…」
私は顔をその声の方へ向けると、つい最近会ったばかりの人物だった。
「…うん、だからこうして此処に居る」
腕を組みながら木に寄りかかっている姿は凄く様になっていて、やっぱりこの人は本当にイケメンなのだなと思った。
悔しいから本人には絶対に言わないけどね。
「左近は何で此処にいるの?」
左近と別れてから二日くらいは経っていた。私が此処を通らなかったら彼はどうするつもりだったのだろうか。
「あー、まぁ、これからお互いに忙しくなるし、俺らだって…」
いつ死ぬか解らないし。
「…っ!」
そうだ、忘れていた。
左近にはあの時に大体の事は話してあったんだった…。
「…確かにいつ死ぬか解らないけど、私と言う異物が介入したからもうこの…っ!」
この先の事は解らない、そう言おうとした瞬間、私の唇は何か柔らかい物で塞がれた。
「っ…!」
それが左近の唇だと気付いたのは、お互いの唇が離れてからの事。
遠い昔に何度も何度も求め合った甘くて淡い熱。
きっかけは私の得意体質であったけど、確かに私は彼に…。
「悪い…」
そんな事を思い返していると、先に沈黙を破ったのは彼で、言ったセリフが悪いの一言。
「あ、うん…」
心の中では悪いってどういう事よと思っていたけど、私も実際に出て来た言葉はそんなセリフだった。
「…名前は名前の決めた道を進めよな」
こっちの事は気にしないで良いからさ…。
そう言った左近。
本当に、優しいのね…。
でも、本当は知っているの。
佐助に様子を見に行って貰った事があって、その時の三成様は手の付けようがないくらいに血に飢え、手当り次第に刀を振り回しては徳川家康の名を叫んでいたと聞いた。
その時、佐助は言わなかったけど…
私の名も、叫んでいたに違いない。
そう考えていると何か難しい顔をして私に言うか言わないか躊躇していた彼がようやく口を開き、こう言った。
「なぁ、名前…一つだけ、頼みたい事があるんだけど…」
もし、それで生命を落すのなら私の運命はそれまでだったと言う事だ。
私は左近の願いを聞き入れる事にした。