第4章 ~くるり、くるりと悠久の輪廻~
【弐拾参】
シャワーを浴びている様な雨に打たれながら、山道の獣道と思われる所を探しながらひたすら歩く。
勿論この時代だ。舗装なんてされている訳がない。
雨で重くなった着物の袖丈を木陰に立ち止まりながら絞り、その度に先程の事を考える。
佐助にトリップして来たと打ち明けた事や " ありがとう " と" ごめん " の意味を込めて口付けた事。
自身の唇をそっと指でなぞるが、もう其処には彼の温もりはなく、雨で冷たくなった唇だけ。
「幸村、様…」
そして、私は幸村様のお気持ちにも気付かない振りをしたんだ。
幸村様が私を見つめる度、触れる度に幸村様の気持ちが流れ込む。
それが辛かった。
私は彼に相応しくない。
所詮私はこの世界の異物、在ってはならない人間なんだ。
「幸村様、私は…」
深い、深い、闇の色なのです…。
そんな事を思いながら、空を見つめると雨は相変わらず降り続いていた。
雨の日は嫌いだ。
必ずと言って良い程、あの人の事を思い出してしまう。
" 僕を忘れないで "
忘れはしない。
だけど、私が思い出すのは血に濡れたあの人の姿。
せめて " わたし " の時の綺麗なあの人を思い出したい。
だけど私の脳裏はテレビのノイズと同じ様に歪み、何度目を瞑っても広がる色は錆び付いた赤だ。
" わたし" と居た時の貴方は、それは美しい微笑みだった。
そして、その笑顔を私にも向けて欲しかった。だけど、そんな美しい貴方はもう居ない。
もう、居ないんだ...。