第4章 ~くるり、くるりと悠久の輪廻~
【拾漆】
空を見上げると美しく瞬く星たち。
だけど月は雲に覆われ、次第に星達も見えなくなるだろう。
どれくらいこうして木の上に居たのか。
少しだけ冷たい風が俺様の頬を掠める。
「あーぁ。旦那も囚われちゃった…」
でも、旦那の場合は純粋に惹かれただけ。
今の名前ちゃんにはあの匂いはしないし、無理矢理って訳ではなかった。
俺様は素直に応援したいと思っている。
何せ、旦那の初恋だしね。
だけど…。
俺様は勢い良く首を振り、胸にモヤモヤとした物を薙ぎ払った。
これ以上深く考えてしまうと本当に後戻りが出来なくなってしまう。
そして俺様は抱き合う二人をちらりと見遣り、その場を後にした。
木の上から移動した後、俺様は一旦部屋に寄った。
旦那の事だ。恐らく冷やした上に布を巻いただけに違いないとそう思い、俺様は火傷に効く薬を取りに行き、名前ちゃんの部屋へと向かった。
「名前ちゃん、薬持って来たよ」
そう言って勝手に扉を開けた。
あれ、何も飛んで来ない…?
何時もなら勝手に入るとバサラを駆使してまで俺様を追い出そうとするのに、今日は大人しい。
やはり今夜は雨が降りそうだ。
「猿飛、佐助…」
何て思いながら部屋に入り彼女の前に膝を折ると彼女の顔が真っ赤になっているのに気付く。
「名前ちゃん、顔が真っ赤」
そう言って火傷を負った彼女の手を取る。
「居たのなら、降りて来て欲しかった…」
死ぬ程恥ずかしかった…。
そう言って俯く彼女が幼子みたいで可愛いと思った事は内緒。
「あは、邪魔しちゃ悪いでしょ」
あんな旦那なんてそう見れないし、奇跡に近いしね。
そう言って名前ちゃんに巻かれていた布を解いて行く。
勿論、旦那が巻いたので不格好な訳なのだが、名前ちゃんを思いやる気持ちが滲み出ていてつい俺様の頬も緩んでしまう。
だけど、何だろう。
胸の奥が、こう…。
考えてはいけないと解っている筈なのに、さっき消したばかりなのに…。
「…ありゃ」
そう呟くと名前ちゃんがどうしたのと言うように俺様の視線をたどって行く。
「火傷の跡が、ない…」